My Biography(28)_ウルリッヒ(ウリ)・ノイシェーファー(その3)

■ちょっと、それぞれの生活シーンとストーリーを時系列に整理しておきましょうかね・・

今回は、ウリのクルマで帰っていく途中の会話が中心になるわけだけれど、そのハナシに入っていく前に・・

実は、これまでの「My Biography」を読み返してみたんですよ。そして、思った。これは、かなり長編になりそう・・

そして、読み返していくなかで、色々なストーリーが時間的に前後していることから、どうも、生活シーンや登場人物の全体像をつかみにくいかもしれないと感じた。

ということで、今回はまず、ケルンに到着してからの生活シーン別のストーリー(登場人物)を整理しておこうと思った。

まずは、ケルンでの初日からスタートしたアパート探しや日常生活、ケルン総合大学での学生登録、そして語学コース(ドイツ語のテスト)といった生活シーン。

そこでは、湯浅フジローさんや、聖園(みその)のデレチアさん、学生寮の日本人留学生、韓国人留学生、はたまた語学コースで一緒になった方々などに登場していただいた。

また、これからストーリー展開していく、アパート生活や(学校やサッカークラブの)友人たちとの日常生活シーン。

特にアパート生活では、同じ階に住む、フランス人とユーゴスラビア人の勤労女性、そして、パティシエを目指す日本人女性などとの「触れ合い」が面白いかもしれない。

そして、ケルンに到着してからの日常生活と、サッカー生活との「時系列」的な関係だけれど・・

要は、学生登録から、総合大学のドイツ語試験に合格するまでのストーリーは、サッカー関係のアクティビティーと、まさに同時並行的に進んでいたということなんだよ。

1.FC.Kölnアマチュアチームへのチャレンジ、そして(現在進行形の!)ウリ(ウルリッヒ・ノイシェーファー) と出会ったサッカークラブ(FCユンカースドルフ)でのストーリーは、大学でドイツ語講座に通っているのと同時に進行していたというわけだ。

また、前回エッセイの、トレーニング後ミーティングで「唐突に」登場した、同年齢のヘルムートだけれど、彼は、チームメイトの一人で、プレーイングマネージャー(選手兼監督)であるヘルベルトと同じく、ケルン体育大学とケルン総合大学(ヤツも医学部)の学生だった。

今は、エッセンで町医者として活躍しているヘルムート。彼とは、今でも付き合いがあり、たまに「スカイプ」で話したりする仲だ。

そして、これからのエッセイは、アパートでの日常生活、大学とサッカークラブでの日常、そして、ウリ(ウルリッヒ・ノイシェーファー)やクリストフ(ダウム)といった友人たちとの交流など、それらは、同じ「時間軸」で動いていくことになる。

ということで、全体時系列のなかでウリと知り合ったのは、大学のドイツ語講座で勉強をはじめた頃と重なる。ということで、私のドイツ語は、まだ幼稚園レベルだったというわけだ。

ちょっと分かりにくくて申し訳ないが、生活シーンごとに追いかけると、どうしても、時間軸に「ブレ」に生じちゃう。悪しからず。

■人類史上最高の「異文化接点パワー」を秘めたサッカー・・

「さっきのことだけれど、飲み屋のテーブルじゃ、オレとヘルベルトが話している横に座っていたから、ケンジも聞いていただろう・・アレ、どう思う?」

ウリが運転する「フォード」のなか。

監督のヘルベルトからは、トレーニング前の全体ミーティングで全員に紹介されていたけれど、一人の選手と個人的にコミュニケートするのは、その時がはじめてだった。

まあ、とはいっても、練習ゲームでは、まあまあのプレーが出来ていたし、互いに声をかけ合っていたから(もちろん、コッチとかアッチ、ココ、なんていう単語だけだよ!)、私も含めて、チームメイトたちとの情緒的な触れ合いは、少しは深まっていたと思う。

ハナシはちょっと逸れるけれど、このように、スムーズに「心理的な距離」を近づけられるのも、スポーツの本質的な価値の一つであるということも言いたい。

スポーツは、「言語を超えたコミュニケーション手段」という、目に見えない社会的な価値をもっているのだ。それも、世界ナンバーワンスポーツであるサッカーのことだから、そのポテンシャルが他のスポーツと比べものにならないくらい大きいことは言うまでもないよね。

そのことは、サッカーのスター選手が、世界中で、もっとも多くの人々に「知られる存在」であるという事実からもうかがえるはずだ。

私は、人類史上最高のパワーを秘める「異文化接点」などと表現するけれど、要は、言語が分からなくても(初期の!?)コミュニケーションが何となく成り 立ってしまうことで(例えばスター選手の名前を連呼するとか・・サ!?)、とてもスムーズに、異文化とも「お近づき」になれるということだ。

まあ、このテーマについては、また別の機会に触れることにしよう。

■車内でのウリとの会話・・

ということで、車中でのウリとの会話に入っていくけれど、その前に、ミーティングの後でウリに紹介されたときのハナシを振り返っておこう。

「ああ、いいよ・・」

ハンブーシュン会長が、「この日本人を乗せていってくれないか?」と、聞いてくれたのだけれど、それに対して、ウリが、そっけなく答えた。

彼は、ヘルベルトとのディスカションが、自分の望むようには展開しなかったことで、ちょっと不満がつのっているようだった。

そんなシリアスなオーラを振りまくウリに、私の方から声を掛けた。

「サンキュー、ユー・アー・テイキング・ミー、アイム・グラッド・・」

そんな感謝の言葉に、急に私の存在に気付いたように振り返ったウリが、ニコッと微笑んだ。もちろん、儀礼的な感じの微笑みだ。

そしてウリが、帰りのクルマの中で、「アレ・・どう思う?」と、私の意見を聞いてきたというわけだ。

「いや・・ハンブーシュンさんに英語で通訳してもらっていたけれど、ハナシのニュアンスまで全て把握していたわけじゃないから・・」

私は、意見することに、ちょっと逡巡した。そりゃ、そうだ。何せ、日本では、あまりお目にかかったことがない自己主張ディスカッションだったわけだから・・。

でも一言だけ、付け加えた。

「それでも・・あんな感じで、フランクにディスカッションできるのは、とても良いことだと思うよ・・」

■そして最後はドイツ語になってしまう・・

「ヘルベルトは、間違っているよ・・オレはレギュラーで出るべきだと思うんだ・・その方が、チームが勝てる可能性が大きくなるし、みんなハッピーになるんだから・・」

ウリは、帰りの車のなかでも、あまり流暢じゃない英語で自分の主張を繰り返していた。

もちろん、チーム事情がまだよく飲み込めていない私は、黙って聞いていた。

それでも、私が日本人(外国人)だということを意識しはじめたのか、やっと話題が日常的なものへと切り替わっていった。

「ところで、ケンジはなんのためにドイツにきたんだい?」

「サッカーを学ぶためだよ・・」

「へ~!?・・たしかにドイツのサッカーには、学べる何かがあるよね・・いまは、世界チャンピオンだしさ・・」

そう、そのとき西ドイツは、ワールドチャンピオンだったんだ(1974年の西ドイツワールドカップに優勝!)。

そこで、ちょっと考え込んだウリが、意を決したように、こんなことを言うんだよ。

「ところでサ・・実を言うと、オレ、日本でサッカーがやられていることを、今はじめて知ったんだよ・・」

ウリは、不得意の英語で話すことにイライラがつのっていたようで、少し時間を置き、そこからドイツ語で話しはじめてしまうのだよ。

「ケンジの勉強のためにも、ドイツ語で話をしたほうがいいよね・・大学で勉強するんだろ?・・そのために、大学の語学コースでドイツ語を勉強しているって、ハンム(ハンブーシュン)が言っていたよ・・」

もちろん、その瞬間は、彼が何を言っているのか、まったく理解できなかった。その言葉につづいて、簡単なドイツ語の言葉や表現をつかって、ゆっくりと説明してくれたのだ。

当時の彼は(まあ、今でもそうだろうけれど・・)、私が分かるドイツ語と、理解できないモノを、とてもスマートに使い分けることが出来た。

もちろん、最初にドイツ語で話しはじめたときは、私が理解できないことを知っていて、早口のドイツ語でまくし立てたはずだ。そしてその直後から、急に、彼のしゃべり方が豹変するんだよ。

そんな、「しゃべり方の落差」が、とても刺激的だったから、こちらの「ハナシを聞く態度」も、とても集中したモノになっていったというわけだ。

私は、そのように、様々な言葉や表現、話し方などを使い分けられるところからも、彼のインテリジェンスレベルの高さを感じさせられていた。

そのことで私は、ドイツ語が単純なモノになってしまうのは仕方ないにしても、とにかく、文法的にも正しい、しっかりとしたドイツ語を話すことに集中「させられた」のである。

対するウリも、私が分かるようなドイツ語で、本当にゆっくりと、そして明瞭な発音で話してくれる。

他のドイツ人との日常会話だと、はじめはゆっくりとしゃべっても、すぐに普通のテンポにもどってしまうことが多かった。だから、会話が長続きしないし、すぐに話題が尽きてしまうのが常だった。

私とドイツ語で会話することは、とても忍耐の要る作業だったのだ。

でも、ウリは違った。

そこに、互いに、相手を積極的に理解しようとする意志メカニズムが作用していたこともあったのだろうけれど・・。

「ケンジは、外国人だよな・・実は、オレも、外国人なんだよ・・」

意味が分からなかった。キョトンとしている私を見ながら、最初は楽しげに話していたウリが、急に真顔になって、その言葉の背景を教えてくれた。

「オレは、二年前に東ドイツから逃げてきたんだよ・・クルマのトランクに隠れてね・・そして、(西)ドイツのパスポートを手に入れてから、憧れていたアメリカへ旅行に出掛けた・・そして今は、アメリカから帰国したばかりというわけさ・・」

そこで言葉を切ったウリは、本当にゆっくりと、続きを語りはじめるのだ。

「オレが、自分のことを外国人だといった意味は、これで分かったよな・・まあ、そのこともあってサ、自分じゃ、外国人の気持ちが、ある程度は分かるつもり でいるんだよ・・まあ、アメリカ旅行で苦労したこともあったしな・・もちろん、ケンジは、まったく違う文化からドイツへ来たわけだから、オレとは事情が違 うことは分かっているけれど・・」

ウリのハナシは、止まらない。

「アメリカじゃ、特に、女の子との会話が大変だった・・こちらは何とか、彼女たちの興味を引きつけようとするけれど、いかんせんオレの英語レベルじゃ な・・結局、話題もみつからずに、今日はいい天気だけれど、ここらへん(この地方)はいつもこんな感じなの?・・そんなバカな話題に終始しちゃうんだよ ね・・」

そこで初めて、ウリが、とても自然で解放された笑顔をみせてくれたっけ。

(つづく)