The Core Column(28)__爆発スタートとフルスプリントが内包する意味・・モデルは長谷部誠と岡﨑慎司

■まさに、意志の爆発・・

「キタ~ッ!!」

そのとき、思わず声が出た。

ドイツ・ブンデスリーガ、ニュールンベルクで活躍する長谷部誠が、全力スプリントの勢いそのままに、相手パスレシーバーがトラップする瞬間を狙ってアタックを仕掛けたのだ。

その1~2秒前。

テレビ画面が、相手チームの大きなパス展開を映し出していた。そこでのカメラワークが、比較的「引いたアングル」だったことで、長谷部誠もテレビ画面のなかにいた。

その瞬間、私は感じた。

アッ・・長谷部誠が、狙いを定めた!

長谷部誠には、相手ボールホルダーの視線やコントロール姿勢から、次にパスが送られるであろう相手パスレシーバーが「見えた」のだ。

ただ、その直後、テレビカメラが、その相手ボールホルダーがいるゾーンへ「寄って」しまった。そう、ズームアップ。

このところ、ドイツ・ブンデスリーガのテレビ放送では、カメラアングルが「寄り過ぎ」の傾向が強くなっていると感じる。

たしかに、「寄った」方が迫力ある画面作りをできるんだろうけれど、ボールから離れたゾーンの状況「も」把握したい私は、「サッカーじゃ、ボールがないところで勝負が決まっちゃうんだぞ!」と、かなり不満が溜まっているのだ。

あっと・・試合。

そのズームアップによって、長谷部誠が、スッと、テレビ画面から「外れて」しまったことは言うまでもない。

でも私は確信していた。長谷部誠のアクションは見えなかったけれど・・ネ。

・・来るぞ・・来るぞ・・

そして次の瞬間、冒頭の「歓声」が口をついたというわけだ。

そのときの長谷部誠の勢いは、まさにフルスプリントだった。

案の定、彼は、相手の「次のパス」を、インターセプトしてしまうか、相手パスレシーバーがトラップする瞬間にアタックしようと、爆発スタートを切ったのだ。

結局、ほんのちょっとタイミングが合わなかったことで、その相手パスレシーバーには、ダイレクトパスで「逃げられて」しまったけれど、私は、そのシーンに、長谷部誠の真骨頂である、「正確な勝負イメージの描写力と強烈な意志パワー」を感じていた。

そして思った。

・・サスガに長谷部誠・・移籍したニュルンベルクでの立派なリンクマン&ゲームメイカーぶりだから、彼のところにボールが集まる、集まる・・テレビ画面を通しても、周りのチームメイトたちに深くレスペクトされ、信頼されていることが手に取るように感じられるじゃないか・・

とにかく今は、長谷部誠の(半月板トラブルからの!)早い回復を祈らずにはいられない。

■そして、岡﨑慎司も・・

ハナシは変わって、マインツが誇る「1. FSV Mainz 05」において、アタッカーとして抜群の存在感を魅せつづける、岡﨑慎司。

あっと・・このクラブの名称だけれど・・

最初の「1.」は、マインツで生まれた最初のクラブ・・という意味。

次の「FSV」は、「Fußball und Sport-Verein=サッカーとスポーツのクラブ」。そして、「Mainz」の次にくる数字「05」は、このクラブが創立された年号(1905年)だ。

特にこの「数字」からは、確かな伝統を感じるじゃないか。

あっと、蛇足。マインツで活躍する岡﨑慎司のハナシだった・・。

彼もまた、攻守にわたる(ボール絡みの!)忠実な実効プレーだけじゃなく、爆発スタート&全力スプリント(ハードワークへの意志の炸裂!)でも、エキスパートから高く評価されているのだ。

「オカザキのプレー姿勢だけれど、ホントに忠実だよな・・チームに貢献しようとする誠実なハードワークは素晴らしいの一言だよ・・」

知り合いのドイツ人ジャーナリストだ。

岡﨑慎司については、先日アップした「このコラム」も参照していただきたい。

■「攻守の目的」を達成しようとする意志が炸裂する・・

皆さんは、日本人が活躍しているドイツ・ブンデスリーガに、選手を評価するための、こんな「統計数字」があることをご存じだろうか。

攻守にわたる(ボールがないところでの!)フルスプリントの量と質。

どんどん存在感をアップさせつづけている「FSVマインツ」の岡﨑慎司。彼は、ゴールを奪えなかったとしても、この「基準」で、常に高く評価されているのだ。

私も、ドイツ留学中に、攻守にわたって繰り出される(ボールがないところでの!)爆発スタートと全力スプリントが内包する戦術的な意味合いを、叩き込まれたっけ。

そこには、攻守の「真の目的」を達成しようとする「強い意志」が、明確に表現されるのだ。

守備では、相手からボールを奪い返すという「真の目的」を達成するために・・(ゴールを守るというのは単なる結果にしか過ぎない!!)。

また攻撃では、シュートを打つという真の目的(≒スペース攻略という当面の目標)を達成するために・・(ゴールは単なる結果にしか過ぎない!)。

選手たちは、その「真の目的」を達成するための具体的なアクションイメージを脳裏に描写し、強烈な意志エネギーを爆発させて全力スプリントを仕掛けていかなければならないのだ。

イメージ創造力と意志のパワー。

それこそが、フルスプリントの量と質を支えるバックボーンなのである。

全力スプリントが、ブンデスリーガの重要な「評価基準」というのも頷(うなづ)けるじゃないか。

■例えば、攻撃でのフルスプリント・・

私が言っているのは、誰が見ても、「ここは行くしかないだろう・・!!」と感じるような(≒考えなくても=オートマティックに!=スペースへ飛び出していかざるを得ないような!)明らかなシチュエーションのことではない。

そんな状況でフルスプリントを仕掛けても、相手にとっても「当たり前の攻防シーン」だから、ディフェンダーからフリーになるのは至難の業(ワザ)だろう。

そうではなく、「何も起きそうもない」状況で、想像力と創造力を駆使して最終勝負シーンをアタマに描写し、そして最高の集中力で相手ディフェンダーの「意識と視線のスキを盗んで!」仕掛けていく爆発ダッシュとフルスプリントのことだ。

そう、最終勝負につながる決定的フリーランニング・・。

フリーランニングの「フリー」は、相手マーカーからフリーになるというイメージが基本だけれど、私は、そこに、「自由意志」という意味も込める。

相手ディフェンスが予想もしないような、仕掛けのフルスプリント。

また、もしかしたら「それ」は、相手だけじゃなく、たまにはチームメイトさえも欺いてしまうような全力スプリントかもしれない。

そして、相手も味方も、ビックラこいて「反応」する。

ウラを取られた相手ディフェンダーは、カバーリングへとって返し、味方ボールホルダーは、リスキーな勝負パスを出さざるを得なくなる(!?)。

だからこそ私は、そんな決定的フリーランニングを、「勝負のスルーパスを呼び込む(引き出す)意志の爆発・・」とも呼ぶのである。

■そして、守備でのフルスプリント・・

サッカーは、「だまし合いのボールゲーム」だ。

だからこそ守備側は、相手の攻撃イメージをしっかりと予測し、確実に、そして効果的に対応しなければならない。

冒頭に登場した、ボール奪取をイメージした長谷部誠の爆発ダッシュと全力スプリントが、その良い例だ。

彼は、相手の次のパスを「読んで」いた。そして、そのイメージと強烈な意志があったからこそ繰り出せた「勝負の爆発スタートとフルスプリント」だった。

浦和レッズを率いたこともあるドイツの名将、フォルカー・フィンケ。

彼がアプローチした戦術的な発想に、「ボール・オリエンテッド」なサッカーというものがあった。

サッカーのチーム戦術的な「目標」は、攻守にわたって、できるだけ多く「数的に優位なカタチ」を作りだすことだ。

それこそが、フォルカーが言うボールオリエンテッドサッカーの具体的な目標なのである。

守備では、相手の攻撃の意図を「読む」ことによって、どこでボールを奪い返すのかというイメージを味方同士でシェアする。

それが上手く機能するからこそ、そのボール奪取スポットにチームメイトが(フルスプリントで!)集まり、数的に優位な「協力プレス」だって仕掛けられるわけだ。

また攻撃では、味方ボールホルダーと、「次の勝負(スペース)イメージ」をシェアし、それをベースに3人目、4人目がフリーランニング(全力スプリント)を繰り出していくことで、攻撃の最終シーンで数的に優位なカタチを作り出す。

アレ!? 守備のハナシだっけ・・。

でもサ、守備と攻撃が「途切れることなく」連続するサッカーだから、守備のハナシをすれば、どうしても「次の」守備にまでハナシが展開しちゃうよな(またその逆もあり!?)。

■ということで、締め・・

このコラムで言いたかったことは、一つ。

爆発スタートとフルスプリントには、自ら仕事(ハードワーク)を探しつづける主体的(積極的)なプレー姿勢が、明確に表れる・・ということだ。

もちろん、攻撃でも、守備においても。

選手にとっても、そんな姿勢があれば、サッカーをプレーすることの「楽しさ」が、何倍にも膨れ上がること請け合いだろう。

あっ、そうそう・・。攻撃での全力フリーランニングについて、こんな「キーワード」も開発したっけ。

相手ディフェンダーにとって、全力で「最後まで走り切る」フリーランニングほど厄介なモノはない・・。

そうなんだよ。

攻撃の「真の」目的を達成するために、針の穴を通すような小さな可能性に懸け、決して「途中」で、中途半端に「見極め」たりせず、最後まで忠実に走り切るような全力の決定的フリーランニング。

そう、岡﨑慎司・・。

そんなフリーランナーをマークするディフェンスにとって、それほど厄介(やっかい)な勝負アクション(プレー姿勢)はないんだ。

何せ、攻撃側でも守備側でも、誰もが「効率的」にプレーしたいと思っているわけだからね。

だからディフェンダーは、そんな「走り切る」真面目な攻撃プレイヤーには、相手ボールホルダーのプレーを観察しながら、「いい加減、見極めろよ!」なんて、自分の方から追いかける勢いを緩めちゃったりする。

でも、優れたチームの場合、そんな状況のときに限って、決定的パスが出てきちゃったりするんだよ。

そう、高質な「イメージシンクロ」をベースにしたノールックパス。

パサーは、味方フリーランナーが、「最後まで走り切る」ことを確信しているからね。

最後のハナシは、ちょっと蛇足だったけれど・・

とにかく、そんな見方でも、ボールがないところでの動き(フルスプリント)の量と質を観察すれば、サッカー観戦が何倍も楽しくなること請け合いなのだ。

だからこそ、スタジアム観戦がお薦めなのである。