The Core Column(16)__最終勝負プロセスでの足許パスとスペースパス・・そして日本代表
■サッカーは、パスゲーム・・
さて、今回のテーマは、パス。
それも、最終勝負プロセスで繰り出される「足許パスとスペースパス」という錯綜したテーマに、「ちょっとだけ」触れてみようという試み。
難しい(硬い!?)テーマということもあって、注意深くディカッションを展開していかなければ・・と、モティベーションが高まっている筆者なのだ。
でも、取り敢えず。
「サッカーの絶対的なベースはパスである・・」というコンセプトを説明するときによく使われる表現から。それは・・
・・ボールは、いくら走っても疲れない・・また、ボールが移動するスピードは、人が走る速さの比ではない・・
要は、仕掛けていくときの基本はパス(コンビネーション)であり、そこに、ドリブルやタメといった「変化を演出するスパイス」としての個人プレーを効果的にミックスしていくということだ。
その「パス」が内包する戦術的な意味合いだけれど・・
「ボールオリエンテッドなプレー」という表現が持てはやされている通り、ボール絡みだけではなく、ボールがないところでも活性化する勝負ゾーン(せめぎ合いゾーン)を移動させる手段という捉え方が、もっともリーズナブルだろう。
チト難しい表現になっちゃったけれど・・
要は、ボールが動けば、攻撃側と守備側が、直接的にボールを奪いあうゾーンが移動するだけじゃなく、ボールがないところで、パスレシーバーと相手マーカーが繰り広げる攻守の「せめぎ合い」の内容もどんどん変化していくということだ。
えっ!? もっと分かりにくくなった!? フ~~ッ・・
とにかく、パスをディスカッションするときは、「ボールがないところでの攻守のせめぎ合い」というテーマを押さえておくことが大事だと思い、そのポイントからコラムをスタートした次第。
サッカーの基本はパスゲームであり、だからこそ私は、「勝負は、ボールがないところで決まる・・」と、最終勝負シーンを表現するのだが・・
■でも、まず攻撃の目的と、そこへ至るプロセスから・・
攻撃の目的は、何といっても、シュートを打つこと・・である。
ゴールは、結果にしか過ぎない。
そして、シュートという攻撃の目的を達成するために意識しなければならない当面の目標が、決定的スペースで、ある程度フリーでポールを持つ(ボールに触る)ことだ。
そう、決定的スペースの攻略・・というテーマである。
私は、そこに至るまでのプロセスには、大きく分けて2つの「タイプ」があると思っている。
あっ・・ちょっと分かりにくい表現になってしまった。要は、具体的な手段のことだ。そして、それには「二つのタイプ」があると言いたかった。スミマセン・・
ということで、その2つの手段。
一つは、ディエゴ・マラドーナ、リオネル・メッシ、はたまたネイマールやクリスティアーノ・ロナウドといった天才ドリブラーに代表される、例の、勝負ドリブルだ。
彼らは、組み立て段階では、ボールを活発に動かす組織サッカーの流れに乗る。
ただ、例えば、自分の眼前に相手が一人「しか」いないといった(単独勝負にとって!)有利な状況を作り出せた次の瞬間には、躊躇(ちゅうちょ)することなく爆発的なドリブル勝負に挑んでいく。そして、その多くで、決定的スペースを攻略してしまうのだ。
そう、彼らは、決定的スペースで、ある程度フリーでボールを持つという「当面の目標」を、単独ドリブル勝負だけで「も」演出できるのである。
もちろん彼らは、状況によっては(気持ちのノリ具合によっては!?)、眼前の相手が「複数」でも関係なく、ドリブル勝負をブチかましていく。そして、「平均」を大きく上回る確率でスペースを攻略し、決定的シーンへとつなげちゃうのだ。
だからこそ、ヤツらは、サッカー史に残るスーパースターと呼ばれるのである。
でも、このコラムでは、そんな「異次元の天才プレー」じゃなく、あくまでもパスによって、スペースの攻略からシュートまで至るパスコンビネーションに特化してディスカッションを展開していく。
■直接シュートへ結びつくパス・コンビネーション・・
もちろん、シュートへ至るプロセスには、ドリブル(個人プレー)要素とコンビネーション(組織プレー)要素が混在している。
だから、シュートまでの(決定的スペースである程度フリーでボールに触るまでの!)プロセスを明確に二つの「タイプ」になど分類できるはずがない。
それは分かっているけれど、このコラムでは、ディスカッションを明快にするため、「主体的な・・」とか、「傾向的な・・」と形容することで、決定的スペースで「ある程度フリーでボールを持つ」までのアプローチを二つのタイプに、大枠で分類したのである。
そう、ドリブル勝負が主体の(その傾向が強い)タイプと、パス(コンビネーション)が主体の(その傾向が強い)タイプだ。
ちなみに、勝負ドリブルとパスコンビネーションが、最高に美しくバランスするような最終勝負を挑んでいけたのは、言わずもがなの(昨シーズンまでの!?)FCバルセロナだった。
彼らについては、2012年に、「こんなコラムシリーズ」もアップしているから、ご参照あれ。
(注釈:コラムシリーズと表現したのは、本文内に挿入したリンクボタンで、過去のコラムも連続的に参照できるようにしたからです・・)
ということで、パスコンビネーションを主体にしたシュートへのアプローチ。
そのスター的な存在は、もちろん、誰もが興奮させられる、直接シュートにつながるような美しいラスト・スルーパスだろう。
もし、そのスルーパスが送り込まれる前段階で、美しい「タメ」のドリブルやボールキープが披露されたら、またそのスルーパスが、相手ディフェンダーの視線と意識を引きつけて逆を取る「ノー・ルックパス」だったら、スタジアム全体が熱狂に包まれるでしょ。
そんなスルーパスだけじゃなく、ラストクロス(センタリング)や、ワンツー(&スリー&フォー)コンビネーションなど、シュートに直接つながるパス(コンビネーション)は、多い。
とにかく、ここでは、最終勝負を仕掛けていくときの(勝負)パスに絞って、ハナシを展開していくことに徹する。
■そして、最終勝負シーンで繰り出される足許パスとスペースパス・・
さて、ということで、次は、決定的スペースを攻略するために繰り出される勝負パス(コンビネーション)を考えてみることにしよう。
最初は足許パスからはじめるけれど、私は、正確にいえば、それには2種類ある・・と思っている。
一つは、止まっている(相手にマークされている!)味方の足許へ、鋭く正確に「付ける」パス。もちろん「それ」では、(決定的)スペースを攻略したことにはならない。
そして、もう一つが、決定的スペースへ(ある程度フリーで!!)入り込んだ味方の足許へ送り込む、フィーリングあふれる足許パス。
この「フィーリングあふれる」という形容詞には、パスレシーバーの体勢などを考慮して、シュートへ向かう「次の勝負プレー」がやり易いように送り込むというニュアンスが込められている。
まず、鋭く正確な足許パス。
それは、味方のパスレシーバーをマークしている相手プレイヤーが、まったく対応できないほど「強烈で正確」なグラウンダーパスでなければならない。
まさに「瞬間移動」的な感じでボールの位置を動かしてしまうのだ。
自軍ゴール前に忽然(こつぜん)と出現してくる相手ボールホルダー。そりゃ、誰だって慌てるよ。
そんな「忽然」に対して、最初にチェックに入るのは、本来のマーカーだが、そこでのマークの「ズレ」の調整や、カバーリング、協力プレスの輪の「位置調 整」、そして「そこ」からのダイレクトパス(コンビネーション)への対応などなど、ディフェンス組織内での動きを混乱させられるはずだ。
だから、この足許パスにしても、直接的にスペースを攻略できるわけじゃないけれど、やり方によっては、とても効果的な「仕掛けの勝負パス」になり得るのだ。
また、後者の、(決定的な!?)スペースへ入り込むパスレシーバーに送り込まれるフィーリングあふれる足許パス。
そのレシーバーが、ボールをコントロールしたときに「ある程度フリー」になれていたら、そこから勝負ドリブルをブチかましたり、決定的なラスト(スルー)パスを送り込んだりと、まさにスペースパスに匹敵する効果を生み出すことができる。
■そして、決定的なスペースパス・・
それは、読んで字のごとく、スペースへのパスだ。
それも、ここで扱うテーマは最終勝負だから、それが送り込まれるのは、決定的な(それに近い!)スペースということになる。
もし「それ」が通ったら、後はもう、そのままダイレクトでシュートを打つか、ドリブル(≒瞬間的なフェイント動作!?)からシュートをブチかましたり、完璧にフリーな味方へラストパスを出すしかない。
まさに、強制的に最終勝負を引き起こしてしまうラストパス。
そんなスペースパスだけれど、それには、決定的スルーパス、ニアポストやファーポスト際のスペースを狙った「鋭い」ラストクロス(センタリング)、後方からの一発勝負ロングパス・・等など、状況に応じて様々な種類がある。
また、素早いワンツーを組み合わせたダイレクト・コンビネーションで、最後に(ダイレクトで!)相手最終ライン裏の決定的スペースへ送り込まれるラストパスもある。
それらは、パスレシーバーとの勝負イメージとタイミングを合わせなければならないから、とても難しく、そしてリスキーな仕掛けだ。
でも、決まれば決定的。直接シュートにつながる。まさに「最終勝負プロセスの理想イメージ」そのものだ。
■そして最後は、やはり日本代表で締めるしかない・・
もう何度もディスカッションしたテーマではあるけれど・・
そう、組織(パスコンビネーション)サッカーが、強さの骨格を成している日本代表というテーマである。
でも、「それだけ」じゃ、世界トップとの「最後の壁」を打ち破っていけないのも確かなことだ。
だから彼らは、その組織サッカーに、いかに効果的に個人プレー(勝負ドリブル&シュートorラスト・スルーパス等!?)をミックスしていくのか・・というテーマにも取り組んでいるのだ。
そんな個の勝負が期待される日本代表の強者たち。
香川真司、本田圭佑、岡崎慎司、また柿谷曜一朗というニューフェースもいるし、後方からは、「必殺の隠密ドリブラー」長谷部誠が、虎視眈々とチャンスをうかがっている。
でも、そんな彼らでも、屈強でスピードとスキルを兼ね備えたフットボールネーションの強者ディフェンダーを相手にしたら、静止した対峙の状態から抜き去っていくのは至難の業だ。
ただ、タイミングよく「スペースパス」を受けられれば事情はまったく変わってくる。
スペースへ勢いよく走り込んだところへスペースパスがピタリと合い、スピードを緩めることなく受けられたら、いくらスピードとパワーを兼ね備えたフットボールネーションの強者ディフェンダーでも、御しきれなくなるに違いない。
それが決定的スペースならば、まさに言うことなし・・じゃないか。
もちろん、前述した、スペースへ入り込むチームメイトへの「フィーリングあふれる優しい足許パス」が決まっても、勝負ドリブルのチャンスは同等だ。
我らが強者どもは、スペースへ入り込んだときのスピードを落とさず、勇気をもってリスキーなドリブル勝負へチャレンジしていくだろう。
たしかに、いまの日本代表には、ディエゴ・マラドーナのような大天才ドリブラーだけではなく、世界レベルで見れば「普通」の天才的ドリブラーでさえ不足しているのが現状だ。
それでも、パスとレシーブの動きをうまく組み合わせることで(両者のイメージを上手くシンクロさせることで!)、決定的なドリブル勝負「も」効果的にブチかましていける。
そう、だからこそ、「パスゲーム」というコンセプトが絶対的なベースのサッカーは、やり方によっては、日本人に「も」大きなアドバンテージをもたらしてくれるのだ。
そのことが言いたかった。