The Core Column(47)_強いサンフレッチェ・・そのバックボーンは・・(中国発)

■急に思い立って・・

チト、ご無沙汰してしまった。

いま、中国の武漢。もちろん、東アジアカップだ。

実は、オフだった昨日、読書をしながらグデグデしていたら、熱を出し、その後の食事で腹も下ってしまったんだ。

たぶんホテル部屋のエアコンをつけっぱなしにしているのが原因だろう。腹下しについては、昨夜の食事にあたったのかもしれない。

ということで、苦しみながらベッドで横になっていたとき、急に、サンフレッチェのことでアタマが一杯になったのだ。

何故だか分からない。

もしかしたら、基本に忠実に、そして常に全力で(また冷静に!)チャレンジしつづける韓国代表チームのイメージと重なったからなのかもしれない。

唐突ではあるけれど、サンフレッチェの「強さ」について、思うところを簡単にまとめておこうと考えたのには、そんな背景があった。

キーワードは、サッカー戦術の基本を全力で忠実に(そしてスマートに!)遂行する「意志のサッカー」と、森保一監督の、心理マネージャーとしての優れたウデ・・ってなところだろうか。

ということで、サンフレッチェの強さの秘密を探っていこう。

■まず何といっても、素早く、効果的な攻守の切り替え・・

そのポイントで、リーグのなかでもサンフレッチェが最高峰チームの一つであることは、誰もが素直にアグリーするはずだ。

それが、リーグトップの失点の少なさの絶対的ベースにある。

また、この項のタイトルにある「効果的な・・」に込められているコノテーション(言外に含蓄される意味!)にも触れておこう。

要は、相手から(再び最前線で!)ボールを奪い返すために、もっとも「効果的な」切り替え方をする・・というニュアンスを込めたのだ。

彼らは、相手のボールホルダー(ボールを奪った相手!?)を素早くチェックするだけじゃなく、次のパスコース&パスレシーバーまで、とにかく忠実に抑えてしまうのだ。

ターゲットイメージは、守備の基本である相手攻撃(カウンター!?)の遅延であり、再び(直接的に!)ボールを奪い返すことで巡ってくるショートカウンターチャンスだ。

特にショートカウンター。

ボールを奪った相手が、前方へ上がっていこうとした次の瞬間に、再びボールを奪い返してブチかますショートカウンターは、世界サッカーの統計でも明らかにように、もっともゴールを陥れる確率の高いシチュエーションなのだ。

とはいっても、ショートカウンターチャンスを作り出すのは、そう簡単なことじゃない。

そうではなく、攻守が入れ替わった後は、ほとんどのケースで、中盤の攻防プロセスに入っていくというわけだ。

■守備組織のバランシング・・そしてボール奪取への「強烈な意志」・・

素早く攻守を切り替えたサンフレッチェ。

ショートカウンター狙いの(最前線での!)ボール奪取アタックに入ったプレイヤー以外は、いの一番に、互いのポジショニングバランスを取りながら守備組織を再構築する。

もちろん安易にリトリートするのではなく、あくまでも、ボールの位置とグラウンド全体の状況に応じた「高さ」でのディフェンス組織である。

そして、サンフレッチェ最前線のプレッシングをかわした相手は、そこから、サンフレッチェの真骨頂である、組織的な連動ディフェンスと対峙しなければならなくなるっちゅうわけだ。

まあ、ここでは、互いの微妙なポジショニングバランスの取り方とか、マーキングやカバーリングの仕方、はたまた協力プレス狙いの「ボカしたポジション取り」などといった「細部のディスカッション」には入っていかない。

そうではなく、サンフレッチェ選手たちの、守備での意識(責任感)の高さと、ボール奪取のリスキー勝負へチャレンジしていく意志の強さを取りあげたい。

さて、視点を変えて、サンフレッチェがブチかました、素早い攻守の切り替え&最前線プレッシングによってカウンターチャンスを潰された相手。

彼らは、今度は、組み立てながら攻め上がるしかなくなった。

それに対してサンフレッチェ守備は、もちろん、まず相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのアプローチ(寄せ)を忠実に繰り出しつづける。

そして周りのチームメイトは、そのチェイス&チェックを「イメージの起点」に、インターセプトや、相手トラップ瞬間のアタックを狙ったり、協力プレスを狙ったりする。

そう、常に積極的に、自分主体で・・。

それが、このコラムで取りあげたいテーマなのだ。

そこでサンフレッチェ選手たちが魅せつづける、次、その次のボール奪取勝負への「意志」。

要は、「相手の次のボールの動きに対して全精力を傾注できているか・・」というテーマである。

そのポイントで、サンフレッチェは群を抜いていると思うのだ。

決して彼らは、「次のパスレシーバーにアプローチ出来れば(寄せられれば!)いいや・・」なんていう安易なマインドじゃない。

そうではなく、一人の例外もなく、最初にアプローチ(チェイス&チェック)した仲間のハードワークを無駄にせず、自分がボールを奪い返してやる・・と、まさに「猛禽類の眼」で、次のチャンスをうかがうのである。

このポイントは、そこに、戦術的な理解や能力だけじゃなく、選手たちのインテリジェンスや心理・精神的な「内実」が如実に現れてくるという意味で、とても興味深い。

一度、彼らの(組織)ディフェンスに目を凝らしてみよう。

ボールがないところで「何か」を狙っている選手たちの「猛禽類の眼」や「爆発を予感させる雰囲気」を体感してもらいたいのだ。

そこには、レベルを超えた「テンション」がある。それを感じ取るだけでも入場料にオツリがくるってものじゃないか。

私は、「それ」こそが、サンフレッチェの強さの源泉だとすることに躊躇(ちゅうちょ)しない。

そう、明確な意識と強い意志こそが彼らの強さのバックボーンなのである。

■そして強力なオフェンス・・

サンフレッチェの攻撃。

それが、素晴らしい実効に溢れていることは、数字が証明している。

サンフレッチェは、失点だけじゃなく、ゴール数でも、リーグトップに君臨しているのだ。

守備については前述したとおりだけれど、彼らの攻撃でも、その「やり方」についてのイメージが、チーム全体で、広く、深く「統一」されていると感じる。

そして彼らは、「それ」を実効につなげられるだけの強烈な意識と意志を持ちあわせている。

まず、何といっても、タテへの素早いアタック。

そう、「ザ・ヒロシマ」と呼ばれて恐れられている、ショートカウンターも含めたタテへの素早い仕掛けだ。

そして、佐藤寿人を中心にリードされた「ザ・ヒロシマ」が炸裂する。

ときとして彼は、「味方がボールを奪い返せるかもしれない・・」というタイミングで既に、ウラの決定的スペースへスタートを切ることだってある。

それもまた、チームのなかで、「守備のやり方」について深い共通理解が浸透しているからに他ならない。だからこそ佐藤寿人には、「次のボール奪取」がクリアにイメージできるのだ。

もちろん受け手は佐藤寿人だけじゃない。

そこには、若手のスピードスターで、今回の東アジアカップにも代表初選出された浅野琢磨もいるし、野津田岳人もいる。

■また彼らは、組み立てでも「オーソドックス」に優れた破壊力を発揮する・・

ちょっと、「ザ・ヒロシマ」を強調し過ぎたかもしれない。

もちろん彼らは、それだけじゃなく、組み立てでも、とてもスマートに、そして堅実に(オーソドックスに!)チャンスを作り出す。

基本は、組織サッカー。

人とボールを、素早くスムーズに、そして堅実に動かしつづけるのだが、彼らの場合は、決して、「ボールを動かす」ことがイメージの中心ではなく、あくまでもそれは、スペースを攻略するための手段にしか過ぎない。

このコトは、とても重要なポイントだ。

往々にして選手たちは、特に疲労がたまってきたら、攻撃における本来の目的イメージを「喪失」しがちになって足を止めてしまうモノなのだ。

でもサンフレッチェは違う。

彼らは、タイムアップのホイッスルが吹かれるまで、スペースを攻略してシュートを打つという攻撃の目的イメージを、鮮明に描きつづけていると思うのだ。

そう、常にスペースを強くイメージしながら「動き」をマネージしつづけるサンフレッチェ。

そして、サイドのスペースをうまく活用したり、後方で「動きをマネージ」しながら、唐突に繰り出す鋭いタテパスで、決定的スペースへの最終勝負をブチかましたりする。

特に、最前線の「飛び出し」と勝負のタテパスが、これ以上ないほど美しくシンクロ(同期)するコンビネーションは見応え十分だ。

必殺のショートカウンター。組み立てベースで仕掛けていく、サイドゾーンの攻略や、「静と動のメリハリが効いた」タテへの最終勝負。はたまたスピードスター達のドリブル突破。

そんな変化に富んだ攻撃は、観る者を飽きさせない。

強いはずだ。

■そして、スマートで真摯な仕事人、森保一・・

すでに彼は、「J」を連覇した四人の歴代監督の一人として歴史に刻まれる、名将の誉れ高いプロコーチである。

それにしてもサンフレッチェは、毎年、(前シーズンの!)主力を他のチームに引き抜かれているにもかかわらず、サッカー内容と結果が、大きく崩れることがない。

それも、これも、森保一が志向するサッカーが、下部組織も含めたクラブ全体に深く理解され、浸透しているからに他ならない。

選手が変わっても、全体パフォーマンスがガクッと減退することがないのも頷ける。

そう、彼らの成功を支えている、とても重要なバックボーンの一つ。そして「それ」もまた、森保一というプロコーチの「ウデ」の証明でもあるというわけだ。

ところで、「選手たちの意識と意志を極限まで高揚させる・・」というテーマだが、それは、「強要」では決して達成できるモノではない。

極限の優れた意識と強烈な意志。それは、あくまでも「主体的なモノ」なのだ。

そう、選手たち自身が望み、達成しようとする姿勢があって初めて到達できる「高み」なのである。

相互信頼をベースに選手たちの「心」を解放することで、彼ら自身が考え、工夫し、自己主張を繰り広げるという進歩的なチームの雰囲気。

チーム全体に「森保イズム」が浸透し、継続して花が咲きつづけるのも当然の成果じゃないか。

優れた心理マネージャー、森保一に乾杯!!