The Core Column(40)_勝負はボールがないところで決まる・・フリーランニングと日本代表

■スペース攻略という、めくるめく快感・・

「出せ~~っ!!」

そのとき私は、ありったけの声を張り上げながら、フリスプリントで決定的スペースへ抜け出した。

そう、最終勝負の全力フリーランニング。

それは、ドイツ留学中に私がプレーしていたチームでのワンシーンだ。

もちろん、マークしていた相手ディフェンダーがボールを見た瞬間を狙ってスタートした。

また、走り方にしても、オフサイドを避けるため、まずセンターゾーンへ入っていき、仲間のボールホルダーが、タテパスを出せるタイミングを狙って、ウラの決定的スペースへ急激なギアチェンジで飛び出した。もちろん「回り込み」という動きの変化を入れながら。

そんな「工夫」が功を奏し、ベストタイミングで送り込まれたスルーパスを、まったくフリーで受けることができた。

それは、まさに、決定的スルーパスを「呼び込む」勝負のフリーランニングだった。そして、飛び出してきたGKの「鼻先」で、ゴールへのパスを決めた。

快感のガッツポーズ。私は、恥ずかしながら、自分のアクションに酔っていた。

そして、ここが大事なポイントなのだけれど、その快感が、脳裏の記憶タンクに深く刻み込まれ、その後も、チャンスになりそうな状況になったら、常に、その「イメージ」が呼び覚まされるようになったのだ。

いや、呼び覚まされる・・というよりも、身体に染みついた「感覚」として、チャンスになりそうな状況には、「自然と身体が動き出す・・」ってな表現の方が正確かもしれない。

そして、プレーの進化を実感する。

それは、発展へのモティベーションという意味合いでも、とても大切な「感覚」だったのだ。

そう、優れたプレーの絶対的バックボーンは、何といっても、「成功と失敗の体感」を積み重ね、それを脳裏に(血のなかに!?)刻み込んでいくことなのである。

■3人目の動きの成功体感・・そして、「次」をイメージしていなかった失敗体感・・

そのとき、「何か」を感じた。

多分「それ」は、最前線のセンターゾーンで、後方からのタテパスに備えていた味方ワントップが、一瞬投げた視線だったのだろう。

そう、アイコンタクト。

「アッ・・ヤツが、オレを見た・・これは、来る・・」

次の瞬間、中盤にいる味方ボールホルダーから、ズバッという強烈なグラウンダーパスが、そのワントップの足許へ送り込まれた。

そのときの記憶は定かじゃないけれど、多分、中盤の味方ボールホルダーがタテパスを出した瞬間には既に、自然と身体が動いていたと思う。

もちろん、味方ワントップの横に空いたスペースへのフルスプリントだ。

そして案の定、そのワントップが、ダイレクトで、私が走り込む私の眼前スペースへ、まさに「置く」ようにボールをコントロールしたんだよ。素晴らしいダイレクトパスだった。

でも・・

そのダイレクトパスは、まさに理想的な強さとコースに送られてきた。私が、良い体勢でボールをコントロールできるのも道理だ。

でもそのときの私は、今でもはっきりと思い出せるのだが、次の最終勝負へ向けた「プレーの流れ」を、まったくイメージできていなかったのだ。

フリーでボールをコントロールしたにもかかわらず・・。

それは、まさに最終勝負の「起点」じゃないか。でも私は、事前に、そこからの「次の勝負プレー」をイメージできていなかったんだよ。

案の定、私がスタートを切ったのと、ほぼ同時に、「その先」の決定的スペースへ、他のチームメイトが走り込んでいた。そう、4人目の動き。

でも私は、最終勝負パスを出せなかった。つまり、私のところで、その「ダイレクト・コンビネーション」が途絶えてしまったということだ。

「ヘイッ!!」

もちろんその「4人目」のパスレシーバーは、怒りをぶつけてくる。

「アッ!」

私は、その怒りエネルギーをブチかまされる直前には、「4人目の動き」に気付いていた。でも、そのフリーランニングに合わせた「次の勝負イメージ」を描くのが遅れた。

またそこでは、「失敗したくない・・」というネガティブな意識が作用していたかもしれない。

もし、事前に「4人目の動き」まで明確にイメージし、「そこ」へもダイレクトでパスを回せていたら・・。

でも私は、そんな、相手の急所を突く必殺コンビネーションをポシャらせてしまった。

そのとき、自分に腹が立った。4人目の動きを忠実に実行したチームメイトへの済まないという気持ちもあった。

たしかに大きな失敗だった。でも逆に、そこには、ポジティブな「学習機会」という要素もあった。

その失敗は、私にとって、これ以上ないほどの「刺激」にもなっていたのだ。

強烈な「刺激」をともなった苦い失敗体感。

だからこそ脳裏に「より」深く刻み込まれ、コンビネーションイメージを進化させていくための「意義深い記憶」になったのである。

■「フリーランニング」という概念・・

このコラムで取りあげたかったテーマは、ボールがないところでの動きの量と質。

それは、コンビネーションを成就させるための絶対的ベースだ。

その代表格が、相手マーカーから「フリー」になってスペースへ走り込むフリーランニング。

スペースでパスを受けるだけじゃなく、相手マーカーを「引きつける」ことで、味方が使えるスペースも作り出せる。そこには、様々な意味合いが内包されているのだ。

ところで、この「フリーランニング」という表現だけれど、それを使いはじめたのは、たぶん私が最初だと思う。1995年に刊行した初の著書、「闘うサッカー理論(三交社)」で登場させた。

実は、この表現は、ドイツ語の「Freilaufen」の直訳なんだ。まあ、私の功績は、その言葉の末尾を「ing」という分詞形にしたことくらいかな。

とにかく私は、ドイツ留学中に、このコンセプトを叩き込まれたんだよ。

そう、ボールがないところでの、積極的、主体的なアクション。だから私は、「パスを呼び込む(引き出す)動き・・」などとも呼ぶ。

ここで、例によっての「ちょっとした寄り道」だけれど・・

もちろん、止まっていても、パスを受けたりスペースを作るという目的のために、動くよりも効果的なケースだってある。

だから私は、総称として、「ボールがないところでのアイデア(イメージ創造)と物理アクションの実効コラボレーション」なんて呼ぶこともあるわけだ。

とにかく、どんな(ボールがないところでの)プレーでも、当面の目標はスペースの攻略であり、最終目的がシュートであることに変わりはない。

■そして、スペースの攻略というテーマに回帰していく・・

スペース攻略は、(決定的)スペースで、ある程度フリーでボールを持つこととも言い換えられる。

そして、(いつも書いている通り)そのプロセスには、大きく分けて二つある。

一つは、才能ドリブラーが、相手を抜き去ってスペースへ入り込んでいくこと。

そしてもう一つが、フリーランニングとパスを組み合わせるコンビネーションによって、ある程度フリーでボールを持つチームメイトを演出することだ。

もちろん、スペース攻略のプロセスでは、ドリブル(個人プレー)と組織パスコンビネーションを分けて考えることなんて出来るはずがない。

実際には、この二つの要素が、常に組み合わされているのだよ。

でもサ・・、一つのスペース攻略(シュートへの!)プロセスで、勝負ドリブルと組織パスコンビネーションのどちらが、もっとも重要なプレー要素なのかは、明らかでしょ。

そう、スペース攻略(≒シュート)を演出する決定的アクションの主役は、何といっても組織パスコンビネーションなんだよ。

それこそが、サッカーが「パスゲーム」だと言われる所以なんだ。

言葉を換えれば、組織コンビネーションのなかに、ドリブル勝負というスパイス(≒仕掛けの変化)を、いかに効果的にミックスしていくのかがテーマというわけだ。

もちろん、ディエゴ・マラドーナには、そんなサッカーの常識なんて、まったく当てはまらないけどサ。あははっ・・

■最後は、ボールがないところで勝負を決める日本代表というテーマで締めよう・・

前述したように、スペース攻略(=シュート)の王道プロセスは、組織パスコンビネーションだ。

そして、「ホンモノのドラブラー」がいない(今の!)日本代表チームの強みも、「そこにしか」ない。

だからこそ、パスを受けるための、ボールがないところでの動きの量と質が、決定的に重要な意味をもってくる。

もちろん、ここで、ボールがないところでのパスレシーブの動き(フリーランニング)をケーススタディしようなどとは思わない。何せ、サッカーでは同じプレーは二度とないからね。

とにかく、言いたいことは一つだけ。

それは、ザック・ジャパンもまた、「なでしこ」同様に、組織サッカーを絶対的なベースとして勝負に臨んでいく以外に「道」はないということだ。

活発に、そして創造的に、人とボールを動かしつづける組織(パス)コンビネーションによって、相手守備ブロックの穴(スペース)を攻略していくのである。

だからこそ、ボールがないところでの動き(≒フリーランニング)の量と質をアップさせていかなければならない。

そして、「勝負はボールがないところで決まる・・」という普遍的コンセプトの化身として、世界中に日本サッカーをアピールする。

いいね~・・、今から期待が高まるじゃないか。