The Core Column(33)__サッカーは、人類史上最高パワーを秘める「異文化接点」

■あるプレゼンテーションでの出来事・・

「えっ!?・・アナタは、あのときのマンチェスター・ユナイテッドを知っているのですか!?」

イングランド、レディングで行われた、ビジネス・プレゼンテーションでのこと。

私は、ある日本企業の現地法人に対して、マーケティング市場調査と分析のビジネスプランを説明していた。

当時わたしは、マーケティングの会社を経営していた。経営といったら聞こえはいいけれど、ミニマム規模だから、会社の体を成していたかどうかは疑問だけれど・・。

とはいっても、まあ、考える仕事だからネ、パートナー企業(これは、そこそこの規模の組織)と協力して、これまたミニマムのメンバー構成で、日本の企業に対するマーケティングの調査、分析と企画の業務を請け負っていた。

その一環で、クライアント企業の現地法人に対して、マーケティング調査&企画の構想をプレゼンすることになったというわけだ。

現地法人だから、マネージャーの多くはイングランド人。最初は、あまり興味なさそうにプレゼンを聞いていたっけ。

ちょっと倦怠した雰囲気。何とか、彼らの興味を引き出さなければいけない。そう思った。

だから、コーヒーブレイクのときに、四方山(よもやま)話をはじめたんだよ。もちろん、話題はサッカー。

「ところで、今年(1998-1999年シーズン)のチャンピオンズリーグですが・・マンチェスター・ユナイテッドがやりましたね・・おめでとうございます・・」

その年のUEFAチャンピオンズリーグ決勝で、大逆転ドラマを制したマンチェスター・ユナイテッドが優勝を遂げたのだ。場所は、バルセロナのホームスタジアム、カンプ・ノウ。

それをネタに持ち出したのだが、そのことは、ある意味、危険な賭でもあった。

もしイングランド人マネージャーの方々がサッカーに興味がなかったら、また、マンチェスター・ユナイテッド以外のチームのファンだったら。

その後の雰囲気が、もっとダウンしちゃうかもしれない。

でも、幸いなことに、リーダー的なイングランド人マネージャーの方がすぐに反応してくれた。

「あれは素晴らしいゲームだった・・最後の最後のどんでん返しだったから、興奮させられたよ・・」

良かった~。チーフマネージャーは、少なくともサッカーに興味があるようだ。

だから、たたみ掛けた・・。

■ここで、ちょっと脱線して、異文化接点(Cross Cultural Interface)・・

要は、サッカーが、異文化の垣根を乗り越えて交わすコミュニケーションの(共通の)話題として、とても効果的に機能するというテーマだ。

スミマセン、分かりにくい表現になってしまった。

文化って、それぞれの言語(国!?)、人種、宗教や道徳観の違いだけじゃなく、男と女、仕事関係、学校関係、生活(出身)環境、社会的な立場、年齢や性格、インテリジェンス等など、多くのファクターで異なってくるよね。

あっと・・文化。

その定義は難しいけれど、誤解と批判を恐れずに簡単に定義すると、前述した様々なファクターによって異なってくる、「それぞれの生活の仕方・・」ってなことになるのかもしれない。

ここは、コトを難しくするのではなく、言いたいことを簡潔に表現しよう。

要は、そんな「異文化」の人々だって、共通の話題があれば、容易に、人間的に触れ合うことができる(感性的・情緒的な距離を縮められる)ということだ。

共通の話題だけれど、それには、趣味や仕事、家族のこと、地域社会環境(政治や経済!?)のこと等など、星の数ほどある。

そして、そんな共通の話題のなかで、ダントツの世界ナンバーワンスポーツであるサッカーほどのパワーを秘めたモノは他にないと思うのだ。要は、世界のなかで、サッカー大好きな人々がもっとも多いということである。

純粋スポーツ的な側面だけじゃなく、めくるめく歓喜と、奈落の失望の間を激しく揺れ動く(代理戦争的なファクターも併せもつ!?)ドラマ性もまた、最高の情緒パワーの源泉でもあるサッカー。

だからこそ、人類史上最高のパワーを秘めた「異文化接点」だと思うのである。

■冒頭プレゼンテーションの顛末・・

ハナシを戻します。

ということで、冒頭ミーティングのティータイムに「たたみ掛けた」ハナシのつづき・・。

「私もサッカーをやっているのですが、ルーツは、何といってもイングランドサッカーなんですよ・・私がユースのときには、それしかテレビ放映されていませんでしたからね・・」

もちろん、私がドイツ協会の公認プロコーチということはオクビにも出さなかったヨ。あははっ。

「だから、今回のマンチェスター・ユナイテッドの優勝には、興奮させられたんです・・」

でも実は、私にとってそれは、まったく逆の奈落の失望だったんだよ。

何せ決勝では、ゲーム展開から、誰もが優勝を信じて疑わなかった(我らが!?)バイエルン・ミュンヘンが、後半のロスタイムに入ってから大逆転されてしまったんだから・・。

「そういえば、私がイングランドサッカーを観はじめた当時のマンチェスター・ユナイテッドも強かったですよね・・ヨーロッパチャンピオンにも輝きましたし、私もファンになりました・・」

私は、ハナシをどんどん展開させていった。

「特に、ボビー・チャールトンのチームリーダーぶりが大好きでした・・もちろん、ジョージ・ベストの天才ドリブルは、誰が観ても興奮するだろうし、デニ ス・ローの決定力や、ノビー・スタイルズの闘う意志にも感動させられたけれど、私は、チームを統率するボビー・チャールトンの、冷静なゲームメイカーぶり が、大好きだったんです・・」

そこで、そのチーフマネージャーの方から、冒頭の発言が飛び出したっちゅうわけだ。

「いや・・もちろん、テレビ観戦ですから、皆さんのようなスタジアムでの体験はありません・・でも、とにかく夢中になったことを、よく覚えているんです・・」

そんな私の発言に対し、そのチーフマネージャー氏も、すぐさま反応してくれる。

「そうそう・・私もサッカーをやっていたのですが、当時のマンチェスター・ユナイテッドは強かったし、彼らがヨーロッパチャンピオンに輝いたときは、同じ イングランド人として、とても誇りに感じたものです・・でも私は、実は、リヴァプールをサポートしているんですがね・・(笑)」

その最後の言葉を聞いたときは、チト冷や汗が出たけれど、それでも話題はサッカーだから・・。

そのティーブレイクは、10分ほどの予定時間を大幅にオーバーしてしまった。それほど、会話が盛り上がったんだよ。

他のイングランド人マネージャー連中も、次々とサッカーの話題に乗ってきたっけ。

「そうそう、あの当時のマンチェスター・ユナイテッドは強かった・・」とか、「私は、チェルシーのファンです・・」とか、「私は、アーセナルをサポートしているんですよ・・」等など。

あっ・・そうそう、プレゼンテーションの顛末だった。

実は、その後、ミーティング「も」盛り上がったんだよ。

イングランド人マネージャー諸氏も、本腰を入れて、我々のマーケティング構想を(フェアに)評価しようとするようになったんだ。

もちろん、我々のプロジェクトプランに価値がないと判断されたら、「お疲れ様でした~・・では、また次の機会に・・それにしても、サッカーのハナシは面白 かったですよ・・」なんてことになっていただろうけれど、そのときは、ラッキーなことに、取り敢えずそのプランを(試験的に!)実行してみようという結論 になった。

そんな劇的なプレゼン展開も、異文化接点としての、サッカーの為せるワザだった!?

とにかく、私にとって、最高の異文化接点パワーを秘めたサッカーの面目躍如というシーンだったんだよ。

そのことが、言いたかった。

■また、こんなコトもあったっけ・・

それは、1998年フランスW杯でのこと。

そのワールドカップでは、プレスIDを取得できなかったから、欧州コネクションを最大限に活用してチケットを手に入れ(日本戦だけはサッカー協会が用意してくれた・・もちろん金は払わされたよ・・あははっ・・)、15試合ほどをスタジアム観戦した。

そんななか、電車で移動している最中にアメリカから来た親子と知り合ったんだ。

もちろん話しはじめるキッカケは、ワールドカップ(サッカー)。

アメリカでのサッカー市場が、まだ本格的な発展コースに乗っていなかった当時のことだから、ちょっと違和感はあった。それでも話しているうちに、彼らのルーツがドイツだと知り、ナルホド・・とハナシが弾んだものだ。

あっと・・、その親子に話し掛けたのは、私の方からだったんだ。

「スミマセン・・いまお二人の会話を聞いていると、アメリカからワールドカップ観戦にいらっしゃったと思うのですが、アメリカ人は珍しいですよね・・」

「あははっ・・まあ、そう思われるのも仕方ないけれど、前回のワールドカップは、私たちの国で行われたし(1994年アメリカW杯)、私のルーツがドイツということもあって、昔からサッカーは好きだったんですよ・・息子も学校でサッカーをやっていますしね・・」

父親が、柔らかい微笑みを浮かべながら、そう説明してくれた。その方は、40がらみで、息子はティーンエイジャー。

会話は、弾む、弾む。何せサッカーだからネ。

特に、アメリカW杯の準々決勝で、ドイツがブルガリアに敗れたハナシでは盛り上がった。

そのとき私は、東京のブルガリア大使館に隣接するマンションに住んでいた。あっと・・、アメリカW杯は、仕事の関係で、現地まで足を伸ばせなかったんだよ。

でも、ラジオの文化放送で、ほぼ毎日、ワールドカップについてコメントしていた。

そこで、ドイツが負けた翌朝の番組には、こんな体験談を披露したっけ。

・・あ~・・ドイツが負けてしまった・・残念・・ところで私は、ブルガリア大使館の隣に住んでいるんですが、朝の3時だというのに、ブルガリア大使館の人 たちが道路に飛び出して狂喜乱舞するんですよ・・うるさいったらありゃしない・・こちらはドイツが負けて落ち込んでいたから、余計、アタマにきた・・

・・なんてネ。あははっ。

あっと余談だった。ということで、そのアメリカ人の親子。

実はこの二人、関係がとても悪かったらしい。まあ、どの家庭にもあるハナシだろうけれど、お父さんが言うには、日常会話も交わさないほど最悪だったということだ。

それでも、サッカーの話題になったら、少しは言葉を交わすこともあった。

そのこともあって、関係を改善したいお父さんの方から、フランスワールドカップへ行こうと、息子を誘った。最初は、乗り気ではなかった息子だけれど、フランスW杯だからね、最後は息子も、その誘惑に勝てなかった。

そして、フランスで過ごすうちに、徐々にわだかまりが氷解していき、互いに分かり合えるようになったということだった。

「そうなんですよ・・フランスに着いてからのことですが、オヤジの方から、以前、あるコトが原因で言い合いになったときに張り上げた大声のことを謝ってきたんです・・そんなオヤジの態度なんて、見たことなかったんです・・」

とても嬉しそうに話しつづける息子。

「そのことで、自分も、とても素直な気持ちになれた・・そして、その時の原因について、自分にも悪いところがあったと素直に認めらるようになったんです・・もちろん、こちらも謝りましたよ・・」

そんな息子のハナシに、目を細めながら聞き入るオヤジなのだった。

いいハナシじゃないか。

親子とはいっても、基本的に彼らは、年代や生活環境の違う「異文化」の生活者だからね。

そんな異文化の壁を乗り越えさせた共通の話題がサッカーだと知り(ワールドカップやフランスという媒体要素もあった!?)、とてもハッピーな気分になった筆者なのだった。

■最後に・・

とにかく、サッカー万歳!!