The Core Column(31)__「トラップ&コントロール」という根幹テクニック・・そして、バルサとフロンターレの「動きのリズム」

■天才たちのボールコントロール・・

「ウワッ!!」

いつものことだけれど、そのときも、頓狂な声を出してしまった。

バルセロナのイニエスタが、高~く上がったロングパスを、足の甲をつかって、ピタリと、まさにピタリと足許にトラップしてしまったのだ。

それでは、マークしていた相手ディフェンダーがアタックできないのも道理。少しでも遅れたタイミングで仕掛けたら、最初の「タッチ」でボールを「別な場所」へ運ばれ、簡単に置き去りにされてしまう。

また、そのディフェンダーは、イニエスタがトラップする直前に、「アッ・・イニエスタに見られた!」とも感じていたはず。

イニエスタが、直前に、ほんの一瞬ディフェンダーへ視線をはしらせたのだ。それでは、アタックのために「寄せ」ていくのを躊躇するのも当たり前だ。

そしてイニエスタは、身体を硬直させているディフェンダーの眼前で、ピタリとボールをコントロールしながら、そのディフェンダーを「見ている」というわけだ。

そりゃ、頓狂な声だって出るさ。そして、溜息まじりに、こんな思いも脳裏をよぎるんだよ。

・・そうそう・・このトラップ&(ボールを見ない!)コントロールこそが、全ての基盤になるテクニックだっけ・・

バルセロナが展開する、人とボールが動きつづけるポゼッションサッカー。その絶対的なバックボーンに、レベルを超越したボールコントロールがあることは衆目の認めるところだろう。

そして、それがあるからこそ、彼ら独特の、人とボールが、素早く、広く動きつづける「リズム」を、高みで維持できるというわけだ。

■サッカーの根幹テクニックは、トラップ&コントロールにあり・・

サッカーのテクニックには、トラップ&コントロール、ボールキープ、キックやドリブル、フェイントやヘディング、また守備では、ショルダーチャージやタックル、守備フェイント、GKのキャッチングやパンチング、またセービングなどがある。

そのなかでも、ボール(パス)を止めて「自分のモノ」にするトラップ&コントロールは、そこから「全て」がはじまるという意味でも、サッカーの根幹テクニックと呼べるものだ。

サッカー経験がある方ならば、「ボールを止める体感」が、アタマの記憶タンクに詰め込まれているはず。根幹テクニックは、キックではなく、トラップ&コントロールなんだ。

それが(ある程度)出来るようになったところから、サッカーが、それまでとはまったく次元の違う、魅力的な「ドゥー・スポーツ」になるのさ。

■優れたトラップ&コントロールが確固たる「動きのリズム」を生み出す・・

・・そうなんだよ。

チーム戦術(サッカーのやり方イメージ)には無限のアイデアがあるけれど、そのどれを取っても、ボールがしっかり止まらないことには、何もはじめられないんだ。

ここでまた、FCバルセロナに登場してもらおう。

彼らが展開する人とボールの動きは、まさに「ドリ~ム」だけれど、そのバックボーンには、チーム全体でしっかりとシェアされている共通の展開イメージと「動きのリズム」がある。

そして、その共通イメージとリズムを正確に「トレース」するための必須アイテムが、優れたトラップ&コントロールというわけだ。

とにかく、ヤツらのトラップ&コントロールの質は尋常じゃない。

どんなボールでも、足許にピタリと「収め」てしまったり、トラップの瞬間を狙ってアタックしてくる相手を、一発のボールタッチで(相手アクションの逆を取るようなトラップ&コントロールによって!)翻弄し、置き去りにしちゃったりする。

その超絶テクニックを見るたびに溜息が出る。でも、そこでハタと考えるんだよ。

・・とはいっても、トラップ&コントロールが素晴らしいのは、彼らに限ったことじゃない・・世界一流チームの選手たちは、すべからく、巧みなトラップ&コントロールを魅せるじゃないか・・

そう、確かに・・。

ただ、バルセロナに一日(以上)の長があるのは、彼らに、「その先」が備わっているからなんだ。

それは、チーム共通の展開イメージを確実にシェアするための優れたトラップ&コントロールであり、それによって生み出される、人とボールの動きを司(つかさど)る確固たる「リズム感」なのだ。

そう、優れたトラップ&コントロールを絶対的ベースにした確固たる「リズム感」こそが、「バルサ」が魅せつづけるスーパーな組織サッカーの根幹ファクターなのである。

■「動きのリズム」を大切にする川崎フロンターレ・・

急にドメスティックな話題へ飛んでしまって恐縮だが、深く感動させられたことで、是非ここで川崎フロンターレを取りあげたいと思った。

いまの彼らが展開する組織(パス&コンビネーション)サッカーが、とにかく秀逸なんだよ。

私のHPで書いた文章の引用だけれど・・

いまのフロンターレでは、とにかく、組織(パス)サッカーの「リズム」が素晴らしい。

トラップ&パス&ムーブ&リターンパス&トラップ&パス&ダイレクトパス・・etc・・ってな感じ。

とにかく、「次の展開」を明確にイメージ(シェア)する、素早く、正確なトラップ&コントロールが素晴らしいんだ。だからこそ、リズミカルに、次から次へとボールを素早く動かしつづけられる。

チーム全体が、ある一定の、人とボールの「動きのリズム」で統一されているフロンターレ。風間八宏が掲げるコンセプトが、花開きつつあると感じる。

チーム全体が明確にシェアする、「動きのリズム」。繰り返しになるけれど、その大前提こそが、優れたトラップ&コントロールなのだ(もちろん、柔軟にダイレクトパスもミックスするよ!)。

またそこには、その「動きのリズム」のなかに、レナトや大久保嘉人という天才が繰り出すドリブル勝負も、しっかりと「組み込まれている」という大事なポイントもある。

もちろんこの二人とも、基本的には、チーム全体の「動きのリズム」に積極的に乗っていく。でも一度、スペースに入り込んでフリーでボールを持てたら、躊躇(ちゅうちょ)なく、ドリブル勝負に「も」チャレンジしていくんだよ。

天才ドリブラーの勝負チャレンジだからね、普通だったら、周りの味方は「様子見」になってしまうことが多いでしょ。でもフロンターレは違う。

チームメイトたちの「動きのリズム」には、イメージとして(!)そのドリブル勝負も組み込まれているんだよ。だから、人の動きが止まってしまう(様子見になってしまう!)ことがない。

また、ドリブル勝負にチャレンジする天才連中にしても、そのまま抜け出していくだけじゃなく、最後の瞬間に、(確固たるリズム感をトレースするように!!)スペースへ抜け出したチームメイトへ、ラストスルーパスを送り込むというオプション(選択肢)だって持てる。

とにかく、優れた「動きのリズム」というテーマには、変化や最終勝負の「オプションの広がり」といった攻撃のコノテーション(言外に含蓄される意味!)も内包されているということだ。

■優れた「動きのリズム」が目指すところは・・

攻撃の目的はシュートを打つこと。ゴールは単なる結果にしか過ぎない。

そして、その目的を達成するための当面の目標イメージは、何といっても(決定的なウラの!)スペースを攻略することだ。

たしかに、ドリブル勝負でディフェンダーを抜き去れば、その「目標」を達成できる。ただ、やはり原則は(パス)コンビネーションによるスペース攻略なのだ。

そう、優れた「動きのリズム」が目指すところは、パスコンビネーションで、相手守備ブロックの穴(=スペース)を突いていくことなのである。

素早く、広く、確実にボールを動かせば、相手の意識と視線を引きつけること(足が止まったボールウォッチャーにすること!)だって容易だろう。

そして、そのことで空いたウラの決定的スペースを、爆発的なレシーバーの動きと鋭いヤリで(=スルーパスで!)一気に突き通してしまうのである。

■最後は、フロンターレのスーパーゴールで締めよう・・

2014年「J」シーズン第5節、フロンターレ対グランパス戦での決勝ゴールシーン。後半23分のことだ。

センターサークル付近でタテパスを受けた大島僚太。

一発トラップ&コントロールで前を向き、次の瞬間には、最前線の右サイドにいる小林悠の足許へ、ズバッという強烈なグラウンダーのタテパスを送り込む。

事前に周りの状況が「見えて」いたからこその早業(はやわざ)。

そして、そこからの人とボールの動きが、まさに秀逸の極みだった。もちろん、そのバックボーンに、確固たる「動きのリズム」があったことは言うまでもない。

勝負のコンビネーションはつづく。

トラップ&コントロールで素早くボールを「自分のもの」にした小林悠から、彼を追い越した牛若丸(中村憲剛)へ、そして、外に開いている森谷賢太郎へと、素早くボールが動きつづける。

森谷賢太郎は、ダイレクトで、寄ってくる小林悠へボールを「戻し」、その小林悠が、上がりつづけていた牛若丸へボールを「戻し」たのだ。

この時点で、(決定的スペースで!)ボールを持つ牛若丸は、完全にフリーになっていた。

そう、まさに、完璧な『最終勝負の起点』である。

ここで、ちょっと脱線し、「ボールが戻ってくる」という現象について・・。

フランツ・ベッケンバウアーが、ニューヨーク・コスモスでプレーしていた頃、こんなニュアンスの内容を、ドイツのメディアにコメントしたことがあった。

「アイツら、ホントに下手くそなんだよ・・何せ、一度オレがパスを送ったら、もう二度とボールが戻ってこないんだからな・・」

フランツは、ハイレベルなボールポゼッションのことを言っていた。優れた「ボールの動き」がなければ、創造的な変化に富んだ攻撃なんて出来っこない・・。

彼は、低級なサッカーを、「ボールが戻ってこない・・」というキーワードで表現したのである。

でも、フロンターレは違う。

彼らのポゼッションサッカーでは、タテ方向の(リスキーな!)ボールの動きが活発であり、その流れのなかで、スムーズに、そして効果的にボールが「戻され」るのだ。

そのときも、忠実な「パス&ムーブ」でスペースへ入り込んだ牛若丸へ、しっかりとボールが戻されてきたというわけだ。

そして、フロンターレが演出した目まぐるしいボールの動きが、グランパス守備の視線と意識を奪い、彼らの思考とアクションをフリーズさせてしまう。

グランパス守備は、自分の周りで起きている、(ボールがないところでの!)フロンターレの仕掛けアクションを十分にケアーできなくなっていたのである。

そのとき、自軍ゴール前の決定的スペースで、フリーの大久保嘉人がラストパスを待ち構えていたにもかかわらず・・。

そして案の定、素早く(一発で!)ボールをトラップ&コントロールして振り向いた牛若丸から、大久保嘉人へのラスト(クロス)パスが送り込まれた。

たしかに、グランパス牟田雄祐のタックルが数センチ「遅れた」という幸運にも恵まれたけれど、その直前にフリーになった大久保嘉人に、正確で鋭いラストパスが送り込まれたという事実は重い。

最後は、これまた素早いトラップ&コントロールでボールを収めた大久保嘉人が、冷静にグランパスゴールへ蹴り込んだ。

それは、風間八宏が志向するサッカーコンセプトを、まさに夢のように体現した決勝ゴールだったのである。

私は、心のなかで、風間八宏に拍手をおくっていた。

牛若丸(中村憲剛)を中心に演出された、美しすぎる決勝ゴール。

それは、「トラップ&コントロール」と「動きのリズム」を中心にコラムを書こうと思ったことの大きなモティベーションだった。

ホントだよ・・エイプリルフールじゃないよ・・あははっ・・