The Core Column(25)__岡崎慎司・・イメージシンクロの質
■岡崎慎司が魅せたロケットスタート・・
「ヨ~~シッ!!」
そのとき、思わず声が出た。
ウインターブレイク明けのブンデスリーガ第18節。岡崎慎司の古巣VfBシュツットガルトが、ホームにマインツ05を迎えた。その前半40分のことだ。
シュツットガルトのパスを(実は、酒井高徳からのサイドチェンジパスだったのだけれど・・)、マインツ05のモリッツがカットし、そのまま(確信に裏打ちされた!!)決定的なロビング(タテ)パスを、シュツットガルト最終ライン背後の決定的スペースへ送り込んだ。
そして、そのロビングパスに素早く反応し、背後の決定的スペースへ抜け出したのが、言わずと知れた岡崎慎司だったというわけだ。
こちらが一番期待している最終勝負シーンだから、声が出るのも道理だぜ。
マークしなければならなかったシュツットガルト酒井高徳は、岡崎慎司のロケットスタートに半歩遅れた(自分のサイドチェンジパスがカットされて気落ちしていた!?)。
それで勝負あり。
その決定的なロビング縦パスにフリーで追いついた岡崎慎司は、飛び出してきたシュツットガルトGKの「鼻先」で、ヘッドを使ってボールを押し出し、GKと、追いかけてきた酒井高徳を置き去りにしてしまうのである。
そして最後は、無人のシュツットガルトゴールへ「パス」を決めた。
素晴らしい、ロケットスタートだった。
■岡崎慎司の、年をまたいだビッグパフォーマンス・・
ところで・・
その試合は、ウインターブレイク明けの第18節(2014年1月25日)だったが、そこでの岡崎慎司のスーパーゴールを見ながら、ハッと思い出した。
そういえば岡崎慎司は、その一ヶ月前、2013年12月21日にハンブルクのホームで行われた前期最終マッチ(第17節)、HSV対マインツ05戦でもスポットライトを浴びたっけ。
一ヶ月のブランクはあったけれど、そこでのスーパーパフォーマンスが、アタマのなかに鮮烈に甦(よみがえ)ってきたのである。
何たって岡崎慎司は、そのハンブルク戦でマインツ05がブチ込んだ3つのゴール全てに絡んだんだからね。そう、2ゴール、1アシスト。
彼の、ベストタイミングの爆発ダッシュ(スペースへの飛び出し!)が光り輝いた。
2013年のラストマッチと、2014年のファーストマッチ(両方ともアウェーゲームだぜ!)において、抜群のパフォーマンスを誇示した岡崎慎司。
日本サッカーのイメージアップという視点でも、最高のアピールだった。これでまた、私のヨーロッパでの仕事がやり易くなるじゃないか。
■いいね~・・岡崎慎司・・
このところ、ドイツ・ブンデスリーガの「マインツ05」に所属する岡崎慎司の存在感が際限なくアップしつづけている。
優れたポストプレーはもちろんのこと、シンプルな展開プレーや忠実なパス&ムーブも素晴らしい。また最前線からの(素早い攻守の切り替えをベースにした!)チェイス&チェックに代表される守備ハードワークも、エキスパートの目を奪う。
それだけじゃなく、たまには、勇気が迸(ほとばし)る単独ドリブル勝負にもチャレンジしていく。
そういえば、つづく第19節、フライブルクとのホームゲームで魅せた、相手3人をブッちぎってしまう(それも多彩なフェイントまで織り交ぜた!)美しいドリブル突破は、とにかく秀逸だったっけ。
またこのところ、そんな優れたプレー内容に、ゴールやアシストという(フェアな!)結果もついてきている。とても良い兆候だ。
そんな岡崎慎司だけれど、彼の真骨頂が、何といってもパスレシーブの動き(決定的フリーランニングの爆発スタート)の量と質にあることは言うまでもない。
そう、「動き出し」とか「抜け出し」とか呼ばれる、ボールがないところでの爆発アクション(冒頭じゃ、ロケットスタートなんて表現した)。
彼がブチかます、決定的なフリーランニングのスタートタイミングや走るコースなどは、とにかく抜群なんだよ。
友人のドイツ人ジャーナリスト連中のあいだでも、そんな岡崎慎司に対する評価は、すこぶる高い。
その一人が、こんなことを言っていた。
「オカザキは、とても真面目だよな・・攻守にわたるハードワークをあれだけ忠実にこなすんだから・・チームメイトに信頼されるのも当然だよ・・マインツの プレイヤー全員が、オカザキの動き出しをしっかりと意識し、それをイメージしながらプレーしていると感じる・・それは、彼に対する信頼の証しっちゅうわけ だ・・」
そう、だからこそ、彼の鋭い「動き出し」と、それに対する確信が、チームメイトたちのチャレンジパスを「引き出す」んだよ。
とはいっても、決定的スペースを攻略するコンビネーションの成否を左右するのは、パスレシーバーの動き出しだけ(一方的なモノ)ではないことも確かな事実だ。
それが、今回コラムの主要テーマだ。
■パスコンビネーションの成功ファクターは・・
以前のコラムで、「勝負パスを呼び込む(引き出す)動き・・」というテーマを取りあげた。
それは、「スペースへ・・スペースへ・・」というタイトルのコラムだった。
そこでは、どちらかといったら、フリーランナー(勝負のパスを呼び込む動き≒岡崎慎司の真骨頂!?)を主人公にストーリーを展開したっけ。
でも、もちろん、決定的スペース攻略(パスコンビネーション!)の成否を左右するファクターは、前述したように、パスレシーバーの「動き出し」だけじゃない。
そこには、パサーの、レシーバーに対する信頼度、パサーのポールコントロール状態に対する(レシーバーの!)正確な判断、パサーとレシーバーのアイコンタ クト(≒信頼関係)、はたまた、パスレシーバーの、相手マーカーの目を盗む「動き出しの質」などといった大切な視点もあるのだ。
まあ、私は、それら全てのファクターを一つの言葉で表現するようにしている。
そう、イメージシンクロ(イメージ同期)コンビネーションの質。
■優れたイメージシンクロ(同期)コンビネーションのバックボーン・・
岡崎慎司の場合。
そこには、彼の「動き出しアクション」の多くが、実効レベルの高い最終勝負コンビネーションにつながっているという事実がある。
もちろん、ボールをキープしている味方ボールホルダー(パサー)が、しっかりとルックアップして岡崎慎司と「目を合わせ」、次の瞬間に、双方が「爆発」するという、オーソドックスなコンビネーションシーンは多い。
でも、ボールホルダーが、チラリと岡崎慎司のポジショニングを確認した「だけ」で、ターゲットにする決定的スペースのイメージが、アタマのなかに素早く描 写され、そこにボールを送り込む(岡崎慎司の動き出しを確認せずに≒彼のスタートを信じて!)・・という、「あうん」のコンビネーションも多いのだ。
そして「それ」こそが、互いの最終勝負イメージが、ピタリとシンクロ(同期)している(信頼し合っている)ことを証明するコンビネーションなのである。
とはいっても、そんな岡崎慎司でも、相手マーカーにピタリと身体を寄せられていることで、十分な体勢でパスを受けられないという状況に陥ることだって多い。
それでもマインツのボールホルダー(パサー)は、岡崎慎司がどこにいるのか(どこを爆発スタートポイントにしているのか!)をチラリと視認した「だけ」で、ターゲットスペースへ向けてラストパスを送り込んだりする。
もちろん岡崎慎司も、その信頼に応えるように、味方ボールホルダーの状態を一目見るだけで、(タイトにマークされているにもかかわらず!!)スペースへ飛び出し、とにかく身体半分でも、相手マーカーよりも先にボールに触ろうと全力を尽くすのである。
マインツ05では、そんな信頼関係が、既に確固たるレベルまで深化していると感じるのだ。
■でも、シーズン前のイメージシンクロ状況は・・
イメージのシンクロ(同期)レベルを、そこまで高揚させるプロセスでは、様々な紆余曲折があったはずだ。
私は、岡崎慎司がマインツ05へ移籍した2013年の夏、ブラジルで開催されたコンフェデレーションズカップの帰りに、一ヶ月ほどドイツに滞在し、友人たちと旧交を温めながら様々なディスカッションに舌鼓を打った。
もちろん、岡崎慎司のマインツ05も含めて、日本人選手のシーズン前トレーニングも観察した。
特に大好きな岡崎慎司については、トレーニングマッチも観戦しに行ったっけ。
そのコラムは「こちら」を参照していただきたいのだが、そこで、周りのチームメイトとのイメージを効果的にシンクロさせられるまでには時間が必要だ・・と感じたわけだ。
でも、フタを開けてみたら、半年も経たないうちに、「このレベル」までシンクロ性能が進化しているではないか。
互いの仕掛けイメージを、高い次元でシンクロ(同期)させるプロセスが難しいことを良く知っているから、ちょっと驚かされたものだ。
■最終勝負のイメージを高い次元でシンクロさせるために・・
そんな、シンクロ性能をアップさせるプロセスは、もちろん、監督トーマス・トゥヘルが秘める「ストロングハンド」の見せ所なわけだけれど、そこでは、岡崎慎司自身の「言動」も、ポジティブな影響力を発揮したに違いないと思う。
昨年(2013年7月)のコラムでも書いたけれど、私は、チームメイトやクラブ関係者と(ドイツ語で!?)リラックスして談笑するといった、彼のポジティブな「コミュニケーション能力」を体感しただけじゃなく、普段のトレーニングにおける、テーマに取り組む真摯な姿勢もしっかりと見届けていたのである。
そう、イメージがシンクロしなくても(たとえムダ走りになったとしても!!)、決してめげたりせず、パスを呼び込む(引き出す)動きをつづける真摯で積極的な姿勢だ。
それも、チームメイト(パサー)が良心の呵責を感じるまでに、しつこく・・
もちろんそこには、チームメイトの「プレイヤータイプ」という要素もある。
私は、2013年7月に現地で観戦した印象だけではなく、マインツ担当のジャーナリストや現地で知り合ったサポーターの情報から、マインツ攻撃のイメージリーダーは、カメルーン代表でも活躍するシュポ・モーティング(背番号10)だと思っていた。
ただ、監督のトーマス・トゥッヘルは、マインツ仕掛けのイメージリーダーを、27番のニコライ・ミュラー、11番のユーヌス・マッリ、7番のジームリンクや8番のクリストフ・モリッツといった「組織プレイヤー・タイプ」に委ねることにしたようだ。
たしかに彼らは、シュポ・モーティングのように、ボールを「こねくり回す」ことが少なく、シンプルにプレーするなかで、岡崎慎司の動きを積極的にイメージしようとしている(自分たちのためにも岡崎慎司の才能を、積極的に活用しようとしている!?)。
要は、監督のトーマス・トゥッヘルが、最終勝負コンビネーションを(高い確率で!!)完遂できる岡崎慎司の「才能」に対して全幅の信頼を置くようになったということなんだろう。
だからこそトーマス・トゥッヘルは、岡崎慎司のイメージとうまくリンクするタイプの選手で攻撃陣を構成していると思うのだ。
岡崎慎司の才能が、本当の意味で光り輝きはじめるのも道理じゃないか。
■たとえ「見なくても」、最終勝負シーンが「見えてくる」・・
繰り返しになるけれど、最終勝負のコンビネーションでは、パサーとレシーバーの「あうんのイメージシンクロ」こそがキーポイントになるということを、もう一度強調させて欲しい。
そんな「あうんのイメージシンクロ」が進化&深化すれば、「明確なアイコンタクト」がなくても、またパサーが、まったく「周りを見られる状況」になかったとしても、レシーバー(フィニッシャー)は、最終勝負スポットと勝負シーンをアタマに描けるものなのだ。
そう、「両者」の、最終勝負におけるイメージシンクロの「質」の深化・・である。
それがあれば、パサーが、後方からのパスを受けて振り向いた瞬間には(その直前でも!?)、レシーバーは、決定的なフリーランニングを爆発させることだってできる。
また、3人目(4人目)のフリーランナーとして、他のチームメイトたちがワンツーパスを交換する「流れ」のなかでも爆発スタートを切ることができる。
またパサーにしても、ボールを奪い返したとき、「アイツは、アソコに走り込もうとしているはずだ・・」という、より具体的な「次の勝負コンビネーションのイメージ」をアタマに描きながら、ボールをコントロールできる。
そんな「イメージシンクロの質」は、パスコンビネーションによる最終勝負を結実させるための前提であり、だからこそ、「イメージトレーニング」が重要な意味をもってくるというわけだ。
そのことも言いたかった。
まあ、「イメージトレーニング」については、別の機会に深掘りすることにしよう。