The Core Column(50)_ボランチ・・仕事をさがしつづける意志のプレイヤー・・そして、バランシングと爆発の(静と動の)メリハリ
■澤穂希が魅せた「意志のプレー」に刺激され・・
昨年(2015)の皇后杯決勝。
それは、「世界の澤穂希」の引退マッチでもあった。
私は、読売サッカークラブ時代から、間接的に、「なでしこ」の苦難の歴史を垣間見ていたつもりだ。だからこそ、澤穂希をリーダーとした彼女たちが、 2011年ドイツ女子W杯で頂点に立った姿を、フランクフルトのヴァルトシュタディオンで目の当たりにしたときの感慨は忘れられない。
だから、その当時のコラムには、様々な情緒を詰め込んだという自負がある。
ファイナル数時間後にアップした「このコラム」や、ドイツのサッカー仲間とディスカッションした「あのコラム」。
また、なでしこの進化を分析した「このコラム」や、その1週間後に行われた、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟によるサッカーコーチ国際会議であふれかえった賞賛を伝えたくて書いた「あのコラム」など。
ところで、皇后杯の決勝。
その決勝コラムの末尾に、いつものように素晴らしい「意志のプレー」を展開した澤穂希に刺激され、ボランチというテーマに挑戦するかもしれない・・と書いた。
■ボランチ・・
ボランチ(Volante)とは、ポルトガル語で「ハンドル」という意味だ。フランス語では、ボラン(Volant)。でもドイツ語では、「レンクラード」とは呼ばず、単に守備的ミッドフィルダーとか中盤の底なんて呼ばれることが多い。
彼らは、連動ディフェンスを中盤でリードするだけじゃなく、次の攻撃では、ゲームメイクとかチャンスメイク、はたまた3人目、4人目のシャドーストライカーなどとしても存在感を発揮する。
そう、攻守にわたってチームを引っ張る「舵取り役」を一手に引き受けるのが「本物のボランチ」っちゅうわけだ。
もちろん、中盤の底とか守備的なハーフ(ミッドフィルダー)、また、リンクマンとかセンターハーフ・・なんていう呼び方をされることもある。
実は、以前わたしは、「守備的ハーフ」という表現に固執していた。
それは、わたし自身の現役時代も含め、そのポジション(戦術的な役割イメージ)にこだわっていたからだ(その背景については、また別の機会に書くことにしよう・・)。
でも時が経つにつれて、攻守にわたってチームをリードしていく「マルチタスク」を効果的にこなせる優れたミッドフィールダーについては、『ブラジル』に対して敬意を表するというニュアンスも込めて、ボランチという表現に統一しようという気持ちに傾いていった。
まあ、そこには、(当時の)横浜フリューゲルスで、日本を代表するボランチ山口素弘のパートナーとして抜群のパフォーマンスを魅せたセザール・サンパイオや、ジュビロ磐田の「鬼軍曹」ドゥンガに対する敬意もあったということだろうね。
あっと・・
これからは、一つのコラムをできる限り「短くまとめようと」思っているから、ここでハナシを広げすぎてしまうのは本意じゃなかったんだっけ。
■ということで、ゲーム展開の「状況」を限定してハナシを進めよう・・
限定する!? そりゃ、そうだ。
何せ、前述したように、「ボランチ」というチーム戦術的なタスク(役割)は、攻守にわたって、ものすごく多岐にわたるわけだし、実際の仕事内容にしても、選手のパーソナリティーや能力(天賦の才!?)によって千差万別なのだから。
ということで、ここでは、アンカー(前気味リベロ!?)やリンクマン、はたまたゲームメイカーやチャンスメイカーといった「限定的なタスクイメージ」には入り込み過ぎないようにする。
まあ、そのコトに関連するのだけれど、例えばバルサが展開する、ボールを奪われた次の瞬間からブチかます最前線での「局所プレス」、はたまた、グラウンド 全域にわたって積極的にボールを奪い返しにいく(守備のやり方としての!)プレッシング守備といった、チーム戦術的なディフェンスの「形態」にも入ってい かない。
そうではなく、攻守の「動き」が落ち着き(相手は組み立てプロセス!)、守備側チームがディフェンス組織をしっかりと整備した状況をベースに語ることにしたい。
ゲームの流れが、ある程度落ち着いた状況。
まあ、最前線での「局所プレス」とか相手カウンターといった、ゲームの流れが激しく揺動する「ストラグル」が過ぎた後のゲーム展開などとも表現できますかね。
ということで、このコラムでは、一旦ゲームの流れが「落ち着いた」ところから、相手の「組み立て」に対峙するディフェンス組織が、ボランチを中心に、どのように「コレクティブ」にボールを奪い返していくのか・・というテーマに絞り込もうと思ったわけだ。
あっと・・短く、短く・・
フ~~ッ・・
■「意志」が爆発する・・
ということで、このコラムのメインテーマは、守備ブロックがポジショニングバランスを取った(エネルギーのタメ)から、ボール奪取へ向けた、チャンスを見計らって爆発(ブレイク!)する勝負プレーの「メリハリ」ということになる。
チト、分かり難い。
要は、相手の「組み立てプロセス」に対して、その流れを、いかに効果的・効率的に抑え、そしてボールを奪い返す「勝負プロセス」に入っていくのかというテーマだ。
そして、チェイス&チェック、インターセプトや相手パスレシーバーへのアタック、カバーリング、協力プレスへの集散、ボールがないところでの忠実マーキン グといった、ボール奪取アクション(ハードワーク!)をリードするボランチ・・というテーマに絞り込んでいくっちゅうわけだ。
そう、澤穂希・・。
ハナシをつづけよう。
組織的な「連動ディフェンス・メカニズム」だけれど・・。
ゲームの「動き」が落ち着き、互いのポジショニング(意図と距離!?)をバランスさせることを基盤に、相手の人とボールの動きを猛禽類の眼で観察、予測し、「次の爆発」に備える選手たち。
彼らは、守備のイメージ起点としてのチェイス&チェック(寄せ)と、その周りで「同期的に」展開される集中プレスやインターセプト(相手パスレシーバーに対するアタック)といった連動アクションを虎視眈々と狙っているのだ。
「静」のポジショニングバランス状態から、フルスプリントが満載された「動」の爆発(連動)アクションへの、瞬間的でスムーズな転換。そう、メリハリある「勝負のブレイクアクション」。
そのメリハリの落差が大きければ大きいほど、果実も大きくなるに違いない。
ところで、そこで効果的に機能すべき連動性だけれど・・
それは、「静」から爆発する(ブレイクする)ときには、多くのチームメイトが「同時」にアクションに入っていなければならないという意味だ。
それこそが、「守備アクションの連動性・・」と呼ばれるグラウンド上の現象の本質なのである。
このテーマについては、「The Core Column」で発表した、「強いサンフレッチェ」というタイトルで発表した「このコラム」も参照して欲しい。
そこでのリーダーは、言わずと知れた青山敏弘。
彼がリードするサンフレッチェの(中盤での)組織ディフェンスは見応え十分だ。
ポジショニングのバランスを取りながら相手を誘い込み、ベストタイミンクで爆発する。
そう、メリハリある、「静」から「動」への緩急の変化である。
私は、2015年シーズンにおけるサンフレッチェ成功バックボーンの大部分は、この素晴らしい守備での連動性にあると思っている。
あっと、もう一つ・・
そこには、サンフレッチェの全体的な運動量が、そんなに多くない・・というテーマもあった。
それもまた、チーム全体がシンクロしつづける「メリハリ連動ディフェンス」があったからこそ・・なのだと思う。
■そして、積極的にハードワーク(仕事)を探すというテーマで締める・・
このテーマにこそ、澤穂希が、世界で高く評価されつづける「絶対的な価値」の本質が内包されている。
そう、意志。
攻守の目的を達成するために、積極的にハードワークを探しつづける「強烈な意志」。
それである。
それこそが、サッカー界、メディアでの主要な「ディベート共通項」として、常に俎上(そじょう)に載せられているべき本質的テーマなのだ。
イレギュラーするボールを足で扱うという基本的なゲームメカニズムによって「不確実ファクター」が満載されているサッカー。
選手は、最後は自由に、自分の「意志」をグラウンド上で具体的に表現できなきゃいけないし、それこそが、「正しい自己主張・・」なのである。
「やらされているサッカー・・」などは、偽物なのだ。
もちろん監督のゲーム戦術(ゲームプラン)はあるだろうし、それをベースに、攻守にわたるプレーイメージをシンクロさせなきゃいけない。
サッカーは、究極の「組織(コレクティブ)スポーツ」だからね。でも・・
その「全体的な流れ」のなかに、常に、「自分の判断と決断で、勇気をもってリスクにもチャレンジしていかなければいけない」シチュエーションが出現してくるものなんだよ。
そう、(繰り返しが過ぎるけれど!?)攻守にわたる「意志の爆発プレー」。
守備にしても、(前述したように)組織的なバランシングは基本でしょ。でも勝負の瞬間には、誰もが「基本ルールを超えて」リスクにチャレンジしていかなければいけないのも確かな事実。
例えば、タテに走り抜ける、相手チーム2列目選手のフリーランニングを、自分の背後に最終守備ラインがいるからと、そのまま「行かせて」しまったら、先日の(2015年11月21日)クラシコでのレアルのような大失態を演じることになってしまう。
ところで、「そこ」で守備的ハーフコンビを組んだトニー・クロースとモドリッチ。
クラシコ(バルサ戦)でのプレー内容(ハードワークを探すプレー姿勢!)は最低だったけれど、ジネジーヌ・ジダンが監督に就任してからの初戦(デポルティーボ戦=2016年1月9日)では、まさに「必死のイメチェン」を果たした。
クラシコでの彼らは、2列目や3列目からオーバーラップしてくるバルサ選手を、ものすごく安易に「タテへ行かせて」しまっていた。
そんなだから、中盤守備がうまく機能せず、ホームであるにもかかわらず、大量失点での屈辱的な敗戦の引き金になってしまうのも道理だった(0-4でバルサの勝利!)。
でも、デポルティーボ戦での彼らは、「意志のハードワーク」を炸裂させた。それが、「あの」強いデポルティーボを「5-0」で粉砕する大きな支えになった・・と思う。
そう、要は、「意志」なんだよ。それさえ充実させられたら、確実にプレーコンテンツを何倍にも増幅させられるのだ。
そのことは、「世界」のサッカーの現場でも、エッセンシャルな「共通理解」の一つなのだ。
最後は、自分の意志を、勇気をもって「自由」にブチかまし、リスクに「も」チャレンジしていかなければならない・・のである。
ちょっと蛇足だけれど・・
そんな勇気と意志は、ゴール前の最終勝負シーンにおけるギリギリの必殺ディフェンスプレーとしても発揮される。
いかに「そこ」で、自分の(イメージング能力ベースの!)勇気と意志を、「エイヤッ!!」ってな具合に炸裂させられるのか。
このテーマについては、以前、「The Core Column」で、「こんなコラム」を発表したから、そちらも参考にして欲しい。
ということで、このコラムでは、ボランチというチーム戦術的なタスクを中心に、守備における「意志の爆発・・」というテーマに集中した。
それがあるからこそ、自然と全力スプリントだって出てくるし、チームメイトのミスも、何の「わだかまり」もなく、全力でカバー&サポートしていける。
そして、そんな「積極マインド」があるからこそ相互信頼が高揚し、チームが、一つのユニットとしてより強く結束するっちゅうわけだ。
PS:短くまとめようと思ったけれど、また長くなってしまった。まあ、文章家としての才能が十分じゃないっちゅうことだね。ご容赦・・