The Core Column(45)_・・石井義信さんとの対話(その1)・・(USA発)

■はじめに・・

チト、ご無沙汰してしまった。

まあ、言い訳は止めにしておこう。

私のなかでは、モティベーションがオーバーフローするほどに熟したところで、自然発生的に湧き上がってくる「コア・コラム」という位置づけだから・・。

そう、効果的な学習機会を志向する思考プロセス。

ということで、とても不定期な「コア・コラム」だけれど、戦術的なエッセンスについては、日常のトピックスコラムでも、ある程度はカバーできているはずだから、ご容赦。

■対話(コミュニケーション)ベースの思考プロセス・・

ちょっと大袈裟な表現になってしまった。

要は、たまには、人との対話のなかから何かを発見(再認識)しようとするプロセスも大事だと思い直しているということだ。

サッカーを深く理解されている方と、サッカー現象(テーマ)の背景メカニズムを突き詰めていく。そのなかで、これまでとはタイプの違う視座だって生まれてくるかもしれない。

そんな「思考プロセス」が魅力的なことは、以前にトライしたことがある「The 対談シリーズ」でも体感している。

面目ないことに、その連載は途絶えてしまったけれど、内容のある、とても充実した学習機会だった。

今回のコア・コラムには、その対談シリーズの「復刻版」とでも呼べそうなエッセンス「も」込めようと思っている筆者なのだ。

■石井義信さん・・

ということで、今回のコミュニケーションパートナーは、元日本代表プレイヤーであり、後には日本代表監督も務められた石井義信さん。

この方については、「Wikipedia」をご参照いただきたい。そんなに派手じゃないけれど、素晴らしいキャリアです。

私は、石井さんが、湘南ベルマーレの前身であるフジタ工業サッカークラブの監督(後には総監督、部長)も務められていたことで、神奈川県時代から懇意にしていただいている。

私にとって、「弁証法」パートナーとしても、理想的なエキスパートなのだ。

いま石井さんは、アドバイザーとして、2001年から「某Jクラブ」に所属している。

でも、このコラムでの石井さんは、あくまでも一人の生活者(友人のサッカーエキスパート)として登場していただいている。

誤解のなきよう、取り敢えず、お断りしておく。

深いコンセプトレベルのサッカー哲学を共有できるという意味でも、また人間的にも、とても敬愛する石井義信さん。

どうして今まで、もっと頻繁にサッカー談義をやらなかったのだろう。考え直すと、不思議に思えてくる。

ということで、様々なテーマを石井さんとともに掘り下げていくことで、少しでも日本サッカーに(そのコンセプト環境の深化に!!)貢献できれば・・と期待している筆者なのだ。

■サッカーの基本的なメカニズムと、攻守の本当の目的・・

イレギュラーするボールを足で扱うというサッカーは、不確実な要素が満載。手でボールを扱うゲームとは違い、瞬間的に状況が変化してしまうのも道理だ。

自分自身の判断と決断で、リスクにもチャレンジしていかなければ何かを生み出すことなど出来るはずがないというのも頷(うなづ)ける。

そう、だからこそサッカーは、究極の、自由な(自由にプレーせざるを得ない!)ボールゲームと言えるのである。

私は、そのメカニズムを、こう表現することにしている。

サッカーは、究極の「意志のスポーツ」である・・と。

また、もう一つの基本メカニズムについても触れておかなければならない。

それは、サッカーの場合、外観的な(!)ルールがシンプルであるからこそ、その内実では、局面プレーに唯一の正解がないことも含めて、ものすごく多様な「戦術ファクター」が入り組んでいるということだ。

見た目はシンプル。でも、そのバックグラウンドで交錯しつづける戦術的なメカニズムは、唯一の正解がないという意味も含めて、とても錯綜しているのだ。

ということで、そんなサッカーの基本メカニズムを踏まえた上で、攻守の「本当の目的」というテーマにも言及しておこう。

それは・・

・・攻撃の目的はシュートを打つこと・・また守備のそれは、相手からボールを奪い返すこと・・

その目的を意識すれば、効果的な目的達成プロセスだってイメージし易くなるだろう。

要は、ゴールを奪うとか、失点を防ぐといったグラウンド上の現象は、単なる「結果」にしか過ぎないということだ。

もちろんそこには、決定力とか、最終勝負シーンでの決定的な守備力といった、とても興味深いテーマもあるけれど、「それ」もまた、攻守の「本当の目的を達成するプロセス」に内包されているのである。

そして選手たちは、サッカーの基本メカニズムのなかで、攻守の「本当の目的」を達成しようと、「主体的」に、そして全力で、トライ(リスクチャレンジ)をつづけるというわけだ。

また、そのプロセスには、こんな「意志の内実」という視点もある。

・・攻守の本当の目的を達成しようとするプロセスは複雑に入り組んではいる・・ただそこには、選手が自由に(!)様々なアイデアを駆使できる、十分な「余地」がある・・

・・でも逆に、その「自由な余地」を活用しようとせずに安全プレーへ「逃げ込む」ような選手には、サッカーの本質的な喜びである「自由を謳歌する権利」は与えられない・・

積極的に、そして自由にプレーせざるを得ないサッカー。だからこそ面白い。

まあここでは、攻守の本当の目的とサッカーの基本メカニズムという複合テーマに、これ以上深入りしようとは思わないけれど、そこに、まだまだ多くのキーワードがあることだけは言っておきたい。

例えば・・

・・サッカーは究極の組織(チーム)スポーツ・・サッカーは究極の心理ゲーム・・勝負はボールのないところで決まる・・そのための絶対的ツール、フリーランニング・・

・・互いのイメージが連動していくことの意味合いと、そのバックボーン・・互いに使い、使われるという(心理!?)メカニズム・・美しく勝つという究極のターゲット・・等など・・

それらキーワードのバックボーンにあるコノテーション(言外に含蓄される意味)を掘り下げていく作業もまた、とても魅力的だ。

そんな「基本コンセプトの理解」でも、石井義信さんとは、かなりの部分で共有できている。だからこそ一緒に、時間が許すかぎり様々なテーマ(キーワード)を深めていきたいと思っているわけだ。

もちろん、石井義信さんに迷惑がかからない範囲でネ・・へへっ・・。

■ということで、石井義信さんとは、まず「システム」というテーマから入っていった・・

「むかし、クラーマーさん(デッドマール・クラーマー)が、こんな言い方をしたことがあったんだよ・・どのように守って、どのように攻めるかは、そのすべてが選手に因るってネ・・」

「要は、システムに選手を当てはめるという考え方には注意が必要だということだな・・もちろん、金持ちのビッグクラブだったら、監督が思い描くサッカーのやり方に合致する選手を、世界中から集めることも可能だろうけれどサ・・」

石井さんは、しょっぱなから、システムの意味というディスカッションテーマを持ち出した。

「ところで、数字を羅列したシステムと呼ばれるモノについてだけれど・・それに、どのくらいの意味があるかの評価は難しいよな・・」

「そうそう・・石井さんがおっしゃるように、システムにどのような意味や価値があるのかというテーマは興味深いですよ・・巷じゃ、数字の羅列で表されるシ ステムばかりに注目が集まっていますからね・・そして、あのシステムだからサッカーがうまく機能しなかった、アレだからうまくいった等といった言説が飛び 交っちゃう・・システムと呼ばれているモノは、あくまでも、選手個々の、基本的なタスクイメージにしか過ぎないのにね・・」

石井さんに触発された私のそんな発言に、同調しながらも、ご自身の経験に基づいた考え方を披露する義信さん。

「たしかにそう思うよ、でもオレは、システムを真っ向からネガティブに捉えているわけじゃないんだ・・もちろん攻撃では、そんなに大きな意味はないかもしれないけれど、守備では、とても価値があるとも思っているんだよ・・」

「確かにそうですよね・・システム通りのポジショニングバランスで攻めたら、相手の思うつぼですよネ・・でも逆に、守備に入って(特に!)最初のプレスを外されたりしたときなんかには、システムイメージに沿って、ディフェンスの組織を素早く再構築できたりする・・」

「そうなんだよ・・このことは、オレの経験からも言えるんだけれど、システムは、攻撃ではなく、守備でこそ有用だと思うんだ・・相手にボールを奪われて守 備に入ったら、そのシステムイメージに沿って、互いのポジショニングと役割バランスを考えながら、素早く組織作りができるからな・・そのために、数字を配 列したシステムイメージは、役に立つよ・・」

石井さんのハナシは止まらない。

「もちろん、そのプロセスじゃ、選手たちの主体性が、とても重要になってくる・・クラーマーさんも言っていたように、最後は、自分自身で考え、決断して(勇気をもって!?)実行するっていうプレー姿勢が大事なんだ・・」

勢いが乗った石井義信さんは、そのまま日本のユース世代の環境にまで入り込んでいく。

「ところで、そのシステムというテーマだけれど、日本のユース選手たちは、それをイメージさせられ過ぎていると感じることもあるんだ・・」

石井さん、止まらない。

「とにかく、若い選手であればあるほど、型にはめ込むことは、百害あって一利なしだからな・・そして、大人(プロ)になって、自分で工夫し、決断して積極 的にプレーしていくという主体的なプレー姿勢を自分のモノにできるまでに時間がかかってしまう・・とにかく、ユース選手たちは、他にやらなければいけない コトが山積みなんだよ・・」

「石井さんは、ユースの頃から、主体的に考え、勇気をもって実践するというプレー姿勢を植えつける指導が大事だと言っているんですよね・・オーバーコーチングはいけない・・」

「そういうことだな・・特にディフェンスでは、選手たちが、自分なりに工夫するような主体性を育成することが先決だと思うんだ・・もちろん、ポジショニン グや体勢、カバーリングやアタックのタイミングなど、原則的なところで間違いや勘違いがあったら、その都度正したり、適切なヒントを与えるべきだけれど、 それでも、やり過ぎは、百害あって一利なしということだと思う・・」

「オーバーコーチングですが・・ドイツでも、それが大きな問題になった時期もありましたよ・・まあ、今では、かなり改善されているけれど・・」

「だからサ、クラーマーさんが常日頃いっていたように、基本が大事なんだよ、基本が・・」

石井さんがつづける。

「例えば守備だったら・・相手の能力やクセなんかをイメージしながら、相手とゴールを結んだ線上にポジションを取るとか、その相手とボールを同時に把握で きる体勢を取るとかね・・そして、その基本以上のコトは、選手に任せる・・その意味では、いまの日本じゃ、コーチの忍耐こそが求められているのかもしれな いな・・」

「石井さんが言っているのは、選手たちとの信頼関係を築き上げなきゃいけないということですよね・・そのために、選手たちの主体性に任せることで、彼らが常に自分から考え、自信をもって自己主張するという姿勢を植えつける・・」

「そう・・そういうことだな・・そんなプレー姿勢が確立していけば、例えば守備だったら、選手たちのなかで、相手ボールホルダーに対するチェイスを基本 に、カバーリングだけじゃなく、次のインターセプト狙いや、相手トラップの瞬間を狙ったアタック、また協力プレスのやり方やタイミングだって、選手たちの なかで調整したり修正したり出来るようにもなるさ・・」

■そしてハナシは、どんどん展開していく・・

この、システムというテーマについては、この連載の初期に、「こんなコラム」をアップしたから、そちらも、参照していただきたい。

ということで石井義信さんとの対話。

その後も、監督と選手との信頼関係というテーマとか(このオッサンだったら勝たしてくれるかもしれない・・という信頼感の醸成!)、フジタをベースにベル マーレが設立され、取締役強化部長を務めていたときの中田英寿との触れ合いなどなど、興味深いコミュニケーションに歯止めが効かなくなった。

ということで、石井さんが許せば、この対談を定期的に行い、そのディスカッション内容を「The Core Column」で、定期的にアップしたいと思っている筆者なのだ。

いいでしょ、石井さん・・。