The Core Column(32)__「トッ、ト~ン」というフェイントリズム・・モデルは、ジダン・・そして二軸動作も

■「トラップ&コントロール」からの発展テーマだけれど・・

「ウワッ!!」

・・なんて、また、前回コラムと同じ書き出しになってしまった。

ホントに、天才たちの饗宴が繰り広げられる世界トップサッカーじゃ、エキサイティングな局面シーンがテンコ盛りだよね。

前回はイニエスタだったけれど、今回は、ジネディーヌ・ジダン。

言わずもがなの、世界サッカー史に残るスーパースターだ。

そのジダンが、(前回イニエスタのときと同様に!)高~く上がったボールを、右足の甲に「優しく」乗せるように一発でコントロールしちゃったんだ。頓狂な声だって出るさ。

でも、イニエスタの場合と違い、そのシーンには続きがあった。

そのトラップの瞬間を狙って、相手ディフェンダーがアタックを仕掛けてきたんだよ。

ジダンの、足許に吸いつくコントロールをイメージして「寄せて」いた相手ディフェンダー。だから、「ここしかないっ!」と、アタックを仕掛けるのも道理だった。でも・・

その瞬間ジダンは、立ち足を「踏み換えたり」せず、トラップする動作の流れのなかで(同じ右足で!)ボールを押し出してしまったんだ。

そう、「トッ、ト~ン」というリズム。

ジダンは、最初にコントロールした右足を地面に着かず、同時に、相手アタックをかわすように、ボールを横へ動かしてしまったのだ。そのとき、もしかしたら、ボールも地面に落としていなかったのかもしれない。

そんなだから、相手ディフェンダーが置き去りにされるのも無理はない。

まさに、天才のヒラメキ。舌を巻いた。

■もう一丁、ジダンが魅せたスーパーなトラップ&コントロールを・・

ジダンの、「トッ、ト~ン」という神業トラップ&コントロールは、止(とど)まるところを知らない。

今度は、グラウンダーのパスを受けたシーン。

右足で、ピタリと足許に「収めた」ジダン。そのとき右足は、前述のケースとは違い、「軽く」地面に着いている。

そう、そのときジダンは、その右足へ、重心を「移しはじめて」いたんだ。

このシーンのキモは、今回のディフェンダーが、ボール奪取アタックを仕掛けてこなかったこと。

そのディフェンダーは、アタックするタイミングを失ったことで、寄せていくアクションをストップせざるを得なかったのだ(両足を踏ん張った!)。

それが、勝負の瞬間だった。

そう、相手ディフェンダーが、「ドンッ!」と両足を踏ん張った(!)のと同時に、ジダンが、軽く着地していた(≒重心を移していた!)右足でボールを押し出したのだ。

相手ディフェンダーにとっては、両足を踏ん張ってストップしたのと同時に(!)ボールを動かされてしまったわけだから、まったく対応できずに置き去りにされてしまうのも道理だった。

ジダンが魅せた一連のトラップ&コントロール動作。それは、まさに流れるような一瞬の出来事だった。

そう、もちろんリズムは、「トッ、ト~ン」。

■そして、「二軸動作」というテーマ・・

サッカーでの二軸動作といえば、例えばキックの際、蹴りながら、立ち足から蹴り足の方へ体重を乗せていく(そちらへ重心を移していく)ケースが、その典型だね。

言い換えれば、キックした後の「蹴り足」を、次の動きの「最初の一歩」にするということだ。

「ワンツー」コンビネーションで、ワンのパスを出した足を、そのままパス&ムーブの第一歩にすることも、そうだ。

まあ、それは、サッカーにおける「二軸動作」のベーシックな理解だけれど、私は、トラップ&コントロール&フェイントという一連のアクションにも、そのメカニズムを当てはめる。

そう、ジネディーヌ・ジダンが魅せた、「トッ、ト~ン」というリズムの「二軸動作トラップ&コントロール」である。

冒頭のケースでは、相手ディフェンダーは、ジダンがボールをトラップする瞬間を狙ってアタックを仕掛けてきた。

もちろんジダンは、その相手マーカーの意図とアクションを「読み切って」いる。

だから、浮き球パスをピタリと止めながら、その右足へ重心を移していくことで(上体もそちらへ傾いていく=二軸動作!)、次の瞬間には、「トッ、ト~ン」というリズムでボールを押し出し、アタックしてくる相手を置き去りにできたというわけだ。

また、二つ目のケースでは、アタックのタイミングを失った相手が、「寄せ」のアクションをストップした(両足を踏ん張った!)のと同時に、すでに重心(上体)を移していた右足でボールを押し出した。

そう、「トッ、ト~ン」というリズム。

もちろんそのディフェンダーは、両足を踏ん張ってストップするのと同時にボールを動かされてしまったのだから、反応できるはずがない。

その「モーションメカニズム」については、説明するまでもないでしょ。

ということで私は、この両方のケースを、巧みな「二軸動作(フェイント)リズム」が美しく機能した・・」と表現するのである。

■相手が、両足や、どちらかの足を踏ん張った瞬間がチャンス・・

では、相手と「止まった状態」で正対しているケースを考えてみようか。

「トッ、ト~ン」というリズムのボールコントロール(フェイント)は、トラップ&コントロールだけじゃなく、相手と正対している状況でも、効果的なフェイントとして威力を発揮するんだ。

またまた、ジダン。

右足でボールをキープしている。目の前には、ディフェンダーが、ものすごい緊張感をみなぎらせて(恐怖におののいて!?)対峙している。

次の瞬間、ジダンが、右足アウトサイドで、ちょっと、本当にほんのちょっと、ボールを(右へ)押し出したんだよ。そして次の瞬間、足とボールの動きをピタリと止めた。

それは「動くフリをした」と言った方が正しいアクションだった。

そう、ジダンが仕掛けた、「二軸動作」の狡猾なワナ。

もちろんジダンは、ボールを押し出しながら、右へ重心を移動させはじめている。だから上体も、右へ傾いていく。でも次の瞬間、足とボールをピタリと止めちゃった。

それが勝負の瞬間だった。

ジダンがボールを押し出したとき、(恐怖におののいていた!?)正対するディフェンダーは、ものすごい勢いで「過剰反応」してしまう。そう、最初の「動くフリ」に乗せられて、その方向へ、身体が大きく振られちゃったんだ。

もちろん彼は、それが「動くフリ」だと気付いた瞬間にストップする。

そう、左足を(ジダンから見たら右側の足を!)踏ん張ってしまったんだ。

そして同時に、ジダンが、「動くフリ」をした同じ右方向へ、今度は大きくボールを押し出してしまうんだ。そう、「トッ、ト~ン」のリズム。

もちろんそのディフェンダーは、まったく反応できず、ガクンと膝を折って、抜け出していくジダンを見送るしかなかった。

何度も繰り返すけれど、それも、「トッ、ト~ン」というフェイントリズムがベースだった。

そう、その「リズム」の目的は、相手の動きを「ストップさせる」ことに「も」あるんだ。

相手のアクションを、両足を踏ん張ったり、片方の足を踏ん張ってストップさせる。そして、その瞬間を狙って、ボールを押し出す。

まあそれは、相手アクションの「逆モーション」を突く(取る)とも表現できるかネ。

■また、こんな「トッ、ト~ン」のフェイントもあったネ・・

金田喜稔。

「キンタ(金田)ダンス」と呼ばれて一世を風靡した、独特の「シザースフェイント」である。

基本的には、ジダンがブチかましたフェイントと同じタイプ。

少し「ボールを押し出すフリをして」相手のアクションを誘い、相手が足を踏ん張って止まったのと同時に、その足の方向へボールを押し出して置き去りにしてしまうのだ。

金田喜稔の場合は、その「ボールを押し出すフリ」が、とてもダイナミックで上手かった。足を、大きく「振り出すアクション」が、相手を反応させちゃうんだよ。

相手は、一瞬、その「振り出し足」に反応してしまうというわけだ。

でも、金田喜稔の振り出した足がボールに触らなかったことで(ボールが動かなかったことで!)、今度は「ガシッ」と踏ん張って体勢を立て直そうとする。

それが勝負の瞬間というわけだ。

同時に金田喜稔は、最初に足を振り出した足を軸足にし、同じ方向へ、逆の足を使ってボールを押し出してしまうのである。そのとき、両足が交差する。それが、シザース(ハサミ)フェイントと呼ばれる所以だ。

言うまでもなくそれは、二軸動作の「トッ、ト~ン」リズムだ。

この、金田喜稔のシザースフェイントの切れ味は群を抜いていた。

彼が日本代表を引っ張っていた頃、世界の強豪とのトレーニングマッチでも、繰り返し、眩(まばゆ)いばかりの光を放ちつづけたのだ。

そんなシーンを観るにつけ、日本のサッカー人としての誇りと自信が高揚したモノである。

■「トッ、ト~ン」という二軸動作リズムを自分のモノにするイメージトレーニング・・

このリズムを自分のモノにするためには、もちろん、そのプレーを真似しなければいけない。

真似・・!?

繰り返し、ビデオを観つづけるんだよ。自分のアタマのなかに、その「リズム」が、しっかりと植えつけられるまで・・ね。

そう、イメージトレーニング。

映像(動画)の情報を、何度も、すり切れるほど観ることによって(その動作とリズムにイメージ的に入り込むことで!)、実際に、「トッ、ト~ン」という二軸動作リズムのフェイントを自分のモノにできる可能性が、限りなく大きくなるんだ。

私は、自分自身も含め、多くの成功例を知っている。

イメージトレーニングは、心理的な効果だけじゃなく、やり方によっては、それによるイメージの増幅を、実際に、「物理的な身体のアクション」へと転化させられる可能性を秘めているのだ。

このイメージトレーニングというテーマについては、それが、広く、深い発展性を秘めているから、また別の機会に(一つの独立したコラムとして!)取りあげよう。

■最後に、コラムの骨子テーマを分かり易くまとめておこう・・

フェイントには、キックフェイントとか「またぎ」フェイント、引きワザや「ダブルカット」等など、相手ディフェンダーの反応アクションの「逆を取る」というタイプの「抜きワザ」がある。

でも、このコラムで扱ったフェイントは、チト違う。

それは、(まあ冒頭のケースは違うけれど・・)相手の足が「止まった」のと同時に・・、もっと言えば、意図的に相手の足を「止めた」のと同時に、ボールを動かしてしまうという「抜きワザ」なのだ。

そう、二軸動作の「トッ、ト~ン」というリズム。

うまくいけば、相手を、まったく反応させずに完璧に置き去りにしてしまえるだろう。また、そこでのエネルギー効率も抜群だ。

このタイプの「抜きワザ」は、これまでは「大天才」の専売特許だった。

ジネディーヌ・ジダンしかり、ディエゴ・マラドーナしかり、また・・しかり・・etc。

でも、実は、しっかりとシステマティックにトレーニングすれば、誰にでも使いこなせるモノでもあるのだ。

そのことが言いたかった。