The Core Column(22)__さて、本田圭佑・・人とボールの動きをアップさせる「加速装置」として存在感を発揮せよ

■スピードでブッちぎられて・・

イタリア、セリエA第20節。ACミラン対ヴェローナ。

後半10分のことだ。

ミラン、中央30メートルからのフリーキック。蹴るのはバロテッリ。

ただシュートされたボールは、相手の壁に止められ、そこからヴェローナが、怒濤のカウンターをブチかましていった。

ミラン守備の人数は、不足気味。そのフリーキックスポットにいた本田圭佑も、必死に戻らなければならなかった。

そのとき、後方から大外を回って飛び出し、右サイドのタッチライン際を全力スプリントでオーバーラップしていったヴェローナ選手がいた。右サイドハーフのロムロ。

このシーンで本田圭佑は、ロムロへのタテパスを追いかけるように、これまた全力スプリントで守備に入ったのだ。

本田圭佑がスタートしたときの位置は、後方からオーバーラップしてくるロムロよりも自軍ゴールに近かった(ロムロよりも前だった)。でも・・

最後は、足が速く、先にボールをコントロールしたロムロにブッちぎられ、決定的なラストクロスまで送り込まれてしまったのだ。本田圭佑は、スピードで完璧にロムロの後塵を拝したのである。

ちょっとショッキングなシーンではあった。

・・こんなに本田圭佑は、足が遅いのか・・

まあ実際は、「本田圭佑はそんなに足が速くない・・」という表現ニュアンスの方が妥当だろうし、抜群にスピードのあるロムロに対して、ちょっと回り込むように走るという不利もあったわけだけれど・・。

そして本田圭佑は、その8分後、ビルサとの交替を告げられることになる。

■本田圭佑が秘める天賦の才・・

私は、ミランに加入した本田圭佑が、チームメイト(主力選手!)から「かけがえのない選手」としてレスペクトされ、頼りにされるまでには、まだまだ紆余曲折があると思っている。

もちろん彼に、チーム内ステータスを確固たるものにできるだけのキャパシティーが備わっていることは言うまでない。

・・シンプルなタイミングで(ダイレクトで!?)回す展開パス・・ボールを簡単に失わない優れたキープ力(高い技術に支えられた実戦的スキル)・・

・・次の勝負プロセスを明確にイメージ描写し、ボールを「タメ」ながら放つ効果的なタテ(スルー)パス・・そして、有利なカタチでパスを受けられたら、迷うことなく、危険なドリブル突破をブチかましていく・・等など・・

なかでも特筆なのは、シュート決定力。

これまでに何度、日本代表が、そんな彼の天賦の才に助けられたことか。

まあ、一昨日(2014年1月26日)の21節アウェー、カリアリ戦では、何度も訪れた(少なくとも3回!)絶対的チャンスを決め切れなかったけれど、それは、彼にしては例外的な失敗だった。

そんな、キャパ十分の本田圭佑だけれど、これからミランで成功し、世界トップサッカーの一員として誰もが認める存在になるまでには、まだ課題も多いのだ。

彼は、1人「だけ」でも決定的な勝負プレーを完遂してしまうような「スーパーな天才」ではない。そう、彼はディエゴ・マラドーナではないのだ。

CSKAモスクワ時代は、チームメイトたちも彼の才能を認め、そこにボールを集めてスペースへ走るなど、自分たちのためにも(!)、本田圭佑をうまく利用しようとしていた。

だから、攻撃の中心として活躍できた。

でも今は違う。そこは、ACミランという世界トップの舞台なのだ。

そこでも、それも加入したばかりのタイミングで、CSKAモスクワ時代のプレーイメージを押し通せるとは思えない。

■逆に、彼が得意ではないこと・・

本田圭佑は、いつも書いているとおり、本物のドリブラーじゃない。

本物のドリブラーは、屈強でスピードのある本場の強者ディフェンダーと「静止して対峙する」状況からでも、フェイントやスピードを駆使して(高い確率で!)危険な突破ドリブルをブチかましていけるものだ。

もちろん本田圭佑にしても(香川真司や岡崎慎司にしても!?)、自分がスペースへ入り込んでいく動きのなかで、理想的なタイミングやコースの勝負パスをも らえれば、走るスピードを落とすことなく、眼前のディフェンダーから「すり抜ける」ように、ドリブルで突破していけるだろう。

でも、止まり気味で相手と対峙するのは、まったく次元が異なる状況なのだ。

要は、彼もまた、人とボールが活発に動きつづける「組織サッカー」を必要としているということなのだが、だからこそ、ゴリ押しのドリブル突破にチャレンジするような愚は冒さず、シンプルなタイミングで展開パスを出して動き、次のスペースで「再びボールを持とう」とする。

彼は、(前述した)自分が出来ることと得意ではないことを、しっかりと理解しているのである。

■ACミランという異次元の世界・・

私は、そう簡単には、ミランの強者連中が、本田圭佑のプレー(仕掛け)イメージに敬意を表し、それに積極的に合わせよう(従おう)とするはずがないと思っている。

実際に本田圭佑が、自分のプレーイメージ(仕掛けのコンビネーション!?)を押し通した「自己主張シーン」は、希だった。

例えば、ブラジル代表のカカーとロビーニョ。また、イタリア代表の絶対的エース、バロテッリ。

彼らがボールを持ったら、まず、自分が「中心」になって最終勝負コンビネーションをスタートさせようとしたり、突破ドリブルから最終勝負へ持ち込もうとする。

まあ、だから、ミランの「仕掛けの流れ」が停滞気味になってしまうシーンが多いのだけれど・・。

そんな彼らが、積極的に本田圭佑にボールを渡し、自分は、パス&ムーブで決定的スペースへ走ろうとする(積極的に「汗かき」をする!?)とは思えない。

もちろん、「まだ、この時点では・・」というニュアンスだけれど・・。

■互いに「使い」、「使われる」というイメージのバランス・・

そんなスーパースター連中に対して、本田圭佑は、CSKAモスクワや日本代表と同じように、自分にボールを集めさせ、自分が中心になった仕掛けの流れを作りだそうとする。

要は、オレにボールを渡して、オマエは走れ・・ってなプレー姿勢が目立つということだ。

・・オレは、パサーだ・・ゲームメイカーだし、チャンスメイカーだ・・だからオレにボールを渡して、オマエは走れ・・

だから、立ち止まり気味で、味方からの「足許パス」を待つというシーンが多い。

でも彼は「ディエゴ・マラドーナ」ではないし、ACミランのチームメイトは、世界トップに君臨する強者ばかりなのだ。

そんなチームメイトのなかで、加入したての本田圭佑が、味方を「使う」プレーをイメージし過ぎているのである。

このことは日本代表でも言えるのだけれど、本田圭佑が「グラウンドから消えてしまう」という時間がある。

それは、全体的な運動量が足りないだけではなく、足許パスを「待つ」というプレー姿勢にも起因している。

そんな本田圭佑だから、彼をマークする相手にとっても、狙いやすいターゲットということになってしまう。それでは、チームメイトが、本田圭佑の足許へパスを出しにくくなるのも道理だ。

そして本田圭佑は、グランウドから「消えて」しまう。

ここで言いたいことは、彼は、もっと味方に「使われる」というイメージ「でも」プレーしなければならないということだ。

そのために、攻守にわたって、ボールがないところでのプレーの量と質を(もっと!!)アップさせなければならない・・と思うのである。

■本田圭佑が立ち向かっていくべきチャレンジ・・

さて、本田圭佑が志向すべき「ミランでのチャレンジ」というテーマで、このコラムを締めることにしよう。

まあ、ハナシは簡単。

要は、本田圭佑がリードするカタチで、ミランの組織サッカーを進化させるのだ。

いまのミランが抱える大きな問題点が、人とボールの動きの量と質にあることは、誰もが指摘しているポイントだと思う。

そう、人とボールの動きを、よりスムーズに、より素早く、より大きく、そして、より正確に、創造的に・・

そんな組織サッカーは、新監督クラレンス・セードルフが志向するベクトルにも合致するはずだ。

もし本田圭佑が、そんな進化の主導権を握れるのだとしたら、こちらの気合いも天井知らずということになるじゃないか。そう、願ってもない学習機会。

もちろんそこでは、互いに「使い」、「使われる」というイメージの浸透とバランスが、決定的に重要な意味をもってくる。

そんな「バランス感覚」を、本田圭佑がリードするカタチでチームに浸透させられたら、それほどエキサイティングな出来事はないと思うのだ。

いまこの時点でも、(本田圭佑が入ったことで・・!?)ミランのボールの動きは、少しは活性化しはじめていると思う。

でも、本田圭佑自身が語っている(!?)ように、ボールポゼッションをアップするという視点では、まだ足りない。

相手ディフェンスを振り回してスペースを攻略する高質なパスコンビネーションというレベルまでは、まだ道半ばなのだ。

だからこそ本田圭佑は、最終勝負コンビネーションの場面だけではなく、組み立て段階でも、もっと「パス&ムーブ」を繰り返すことで、自分のところへボールを集めさせなければ(戻させなければ)ならない。

そう、前々回のコラムで書いた、パスを呼び込む動きである。

そのことで、彼を中心に、人とボールの動きが加速すれば、(決定的)スペースを攻略していくパスコンビネーションも、より実効あるカタチで進化していくはずだ。

そして、そんな「リズムの変化」が、ミランのなかで本流になっていけば、カカーにしてもロビーニョにしても、はたまたバロテッリにしても、その流れに「乗って」くるに違いない。

何せ、その「仕掛けリズムの進化」によって、より頻繁に、相手ディフェンスの「薄い」ゾーンでボールを持てる(タテパスを受けられる)ようになるはずだし、そうすれば、得意の「ドリブル勝負」を、より効果的にブチかましていけるのだから。

そんな、ミランの進化を本田圭佑がリードする・・

夢のような学習機会じゃないか。