The Core Column(18)__2種類のラストスルーパス(5秒間のドラマ)・・バルセロナの場合
■最終勝負、5秒間のドラマ・・
このところ、こだわりつづけている「スペースパス」。
今回は、最終勝負のスルーパスにスポットを当てよう。
相手の最終ラインをブチ破って決定的スペースを攻略してしまう、エキサイティングな最終勝負のパス・コンビネーション。
そこでは、心理・精神的な部分も含めて、どんなマインドやアクションが、どのように「連動」しているのだろうか・・。それを、言葉で表現することにトライしようというわけだ。
そう、最終勝負「5秒間のドラマ」。
でも、残念ながら具体的なシーンの映像(ビデオ)は見つからなかった。ただ私のイメージタンクには深く刻み込まれているから、ある程度は正確に描写できる・・と思う。
とはいっても、その最終勝負(コンビネーション)シーンに絡んでいた選手や、細かなボールの動きなどの記憶には間違いがあるかもしれない。それでも、本質的なメカニズムについては、寸分違わないという自信がある。
モデルは、1~3年前のFCバルセロナ。彼らのスーパープレーのなかから、二つのタイプをピックアップし、「5秒間のドラマ」として描写しよう。
一つは、ドリブル(ボールキープ)という個の才能プレーによって作りだされた「タメ」と、そこから逆サイドへ放たれた、ノールックのラストスルーパス。
もう一つが、人とボールが動きつづけるパスコンビネーションの総仕上げとして、3人目、4人目の「フリーランナー」へ、ダイレクトで放たれるラストスルーパス。
この二つの勝負パスは、ともに、相手ディフェンスの視線と意識を「引きつけ」てから決定的スペースへ通された、まさに天才の為せるワザ・・といった類(たぐい)のコンビネーションだ。
でも、天才集団のバルセロナじゃなくても、しっかりとボールを止めて蹴ることさえできれば、これから紹介する最終勝負のコンビネーション(タイプ)は、誰にでも可能だと思う。
そう、その「流れ」に絡んでいく選手たちの脳裏に描かれる「勝負イメージ」さえ、うまくシンクロ(同期)していれば・・
■天才のパス回しが、相手のフラストレーションを助長する・・
そのときボールが、まさに魔法のように、三人のバルサ選手の間を行き来しつづけた。
シャビ、イニエスタ、そしてメッシ。素早く、そして正確に、足許への(ダイレクト)パスを回しつづける。まさに「チキタカ」。
彼らは、そんな目まぐるしいボールの動きのなかに、たまに、トラップ(ボールを止めてコントロールするプレー)を織り交ぜたりする。相手の守備イメージが攪乱されるのも当然だ。
相手は、一瞬ビックリし、それに対応しようと間合いを詰めようとするのである。
例えば、イニエスタがトラップしたシーン。
相手は、イニエスタが、次のステップでボールを押し出すタイミングを狙ってアタックしようと間合いを詰めてくるのだ。でも、次の瞬間・・
イニエスタは、ボールを止めた「最初のステップ」から足を「踏み換えず」、そのまま「同じ足」でボールを押し出してしまうのである。
そう、例の、立ち足をそのまま(足を踏み換えず)に、「トッ・・ト~ッ」というリズムの連続的な「二度押し」で、ボールを次の場所へと運んでしまうのだ。
誰をが見とれてしまう見事な「二軸動作」のフェイントである。
ボールを押し出すアクションを狙って間合いを詰めていた相手ディフェンダーは、その「トッ・・ト~ッ」という、フェイントのリズムによって完全にアタックタイミングを外され、置き去りにされてしまう。
そんな、ダイレクトパスと、才能トラップ&コントロールを織り交ぜたパス回し(ボールの動き)が、数秒間つづいたっけ。
相手のディフェンダーは、そんなボールの動きとフェイント動作に視線と意識を釘付けにされ、足が止まってしまう。
それは、まさに「静」の雰囲気。そのなかで、ボールだけが、素早く、正確にバルサ選手たちの「足許」を行き来するのである。
相手ディフェンスは、もちろん、次のバルサの「仕掛けアクション」を予測し、守備イメージを描写しようとはするけれど、バルサの強者たちは、そんな相手の意図を弄(もてあそ)ぶかのように「チキタカ」を繰り返すのだ。
そんな、レベルを超えた挑発に、相手のフラストレーションが高じていく。そのことは、観ているこちらにも、ビンビン伝わってくる。
そして次の瞬間・・
■シャビが作りだした創造的なタメ・・
メッシからのダイレクト(バック)パスを受けたシャビが、唐突に、仕掛けのアクションを起こした。
相手を挑発するように、ゆっくりと右サイド方向へドリブルをはじめたのだ。
これが効いた。
フラストレーションを溜めていた相手最終ラインの誰もが、その挑発的なシャビのボールキープに、視線と意識を(過度に!?)引きつけられていったのだ。
そう、冷静さを欠いた過剰反応である。
もちろん相手守備ブロックは、周りにいるイニエスタやメッシ、はたまた、逆の左サイドで、状況を見極めようとしている(!?)ペドロといったバルサ選手へのマーク「も」意識してはいる。
でも、そのときは、シャビによる挑発的なボールキープへの意地と怒り(!?)の方が強かったということなのかもしれない。
どんどんと、守備ライン全体が、右サイドへ(過剰に!)引き寄せられていったのだ。明らかに、彼らはエキサイトしていた(シャビの挑発に乗せられた!?)。
・・フザケルナよ~・・調子に乗りやがって・・よし、オレが(シャビを)潰してやる!!・・
そのとき、相手ディフェンスの誰もが、集中プレスでシャビを潰すというアタック(ボール奪取)イメージに集中していったと感じた。
でもそれは、シャビが演出した、まさに究極の、創造的なタメ(ワナ)だったのである。
そしてコトが起きた。
■観ている誰もが欺(ダマ)された・・
リラックスする雰囲気を振りまきながら(相手を挑発しながら!)ゆっくりと右サイドへボールを「運んで」いくシャビ。
彼は、右サイドのタッチライン際まで張り出しているアレクシス・サンチェスに視線を送りながらボールをキープしつづける。
相手守備ラインは、もちろん、その右サイドへ集中していく。
そして次の瞬間、シャビが我々の度肝を抜いた。
ボールをキープする彼には、二人の相手ディフェンダーが迫っていたのだが、右サイドを「見て」いたシャビが、次の瞬間、逆の左サイドスペースへ向けて、浮き球気味のスルーパスを放ったのだ。
まさに、究極の「ノー・ルック」ラストパス。
「えっ1?」
そのとき、誰もがフリーズし、次の瞬間、興奮で我を忘れた。
その(浮き球気味の!)ノー・ルック・ラストスルーパスが送り込まれた、逆の左サイドスペースには、キッチリとペドロが入り込んでいたのだ。
その左サイドのスペースは、相手守備が、右サイドへ偏っていった(シャビの挑発によって引き寄せられ過ぎた)からこそ、大きくなった。
そして、フリーのペドロが、ダイレクト・シュートを炸裂させる。
彼の右足から放たれたシュートは、ゴールネットを突き破らんばかりの勢いで相手ゴールに吸い込まれていった。
■個人のスキルが生み出したスーパーゴール・・
最終勝負には、様々なタイプがあるわけだけれど、このような、個人技と、忠実なボールがないところでの動き(組織ハードワーク)が、ピタリと「シンクロ」したゴールの興奮はひとしおだ。
もちろん、メッシがブチかます、仕掛けからフィニッシュまで一人で演出してしまうドリブルシュートは、誰が見ても興奮する。
でも、この、ペドロがブチ込んだゴールもまた、初期段階の(挑発的な!)パス回しも含め、「個人プレー」と「組織プレー」が高質にバランスした、美しい最終勝負だった。
サッカーの美しさ・・
それは、ドリブル突破に代表される個の才能プレーだけではなく、このような組織(パス)コンビネーションでも十二分に表現されるのだ。そのことが言いたかった。
それにしても、シャビが魅せた、相手ディフェンスの意識とアクションを(挑発しながら!)釘付けにし、最後の瞬間に、その逆を取ってしまう「個の才能プレー」は見事だった。
もちろん私は、その意図を正確にイメージし、逆サイドのスペースへ入り込んでいったペドロの忠実なフリーランニングにも心から拍手をおくっていた。
■さて、もう一つのスーパーゴール・・それも、天才たちのパス回しからはじまった・・
私の記憶では、イニエスタとシャビ、それにもう1人の中盤選手(たぶんブスケッツ!?)が絡んでいたと思う。
そのボールの動きは、これまた典型的な「チキタカ」。
ダイレクトパスを織り交ぜた目まぐるしいボールの動きに、相手ディフェンスの視線と意識も「フリーズ気味」になっていった。
ここでは、この「フリーズ気味」というのがキーポイントだ。
相手ディフェンスも、その「チキタカ」に誘い込まれることが、いかに危険かを、しっかりと意識しているのだ。
だから彼らは、そのバルサのボールの動きに、意識を引き込まれ「過ぎる」ことなく、次、その次のパスを狙うというイメージで対応していたのである。
とはいっても、チェイス&チェックだけではなく、ボールがないところでのマーキング、カバーリングや協力プレスなどなど、同時に、多くの「コト」に気を遣 わなければならないディフェンダーにとって、眼前で繰り広げられる「チキタカ」は、アタマにくる挑発プレー以外のなにものでもない。
でも、その時の相手チームは、あくまでも冷静だった。
ボールの動きに惑わされることなく、足を止め、次のボール奪取アクションに備えている。そこで放散されていた集中エネルギーは、こちらにも手に取るように伝わってきたものだ。
バルサ中盤が展開するパス回し(チキタカ)は、もちろん半径10~20メートル程度の足許パス。
私は、彼らが魅せつづける素早いダイレクトパスだけではなく、たまに織り交ぜるボールを止めるスキルにも見入っていた。
・・本当にヤツらは天才だ・・あんな難しいパスを、ダイレクトで叩いたり、いとも簡単に、それも「二軸動作」を織り交ぜながら、思ったところへピタリとコントロールしてしまうしまう・・これじゃ、相手だって、おいそれとは飛び込んでいけないだろう・・
そう、相手も、安易にアタックに飛び込んだら、その逆を取られて置き去りにされてしまうことを十二分に理解しているのだ。
だからこそ、安易にアタックを仕掛けず、イレギュラーバウンドや、微妙なパスコースのズレなど、「ほんのちょっとした綻び」を、辛抱づよく待ちつづけるのである。
そこで醸(かも)し出される両チームのテンション(緊張感)は、相手が、バルサの「チキタカ」に振り回されないからこそ、極限までアップしつづけていた。
■そしてバルサの天才連中が柔軟に方針を転換する・・
シャビにしてもイニエスタにしても、はたまた、タイミングを見計らって「チキタカ」に参加してくるメッシにしても、相手チームが、簡単に「飛び込んで」こないことを敏感に察知していた。
バルサの天才連中は、もちろん相手を挑発し、キチッと固められた守備ブロックから「誘い出そう」としていた。でも、相手は乗ってこない。
そんな雰囲気のなか、パスを受けたシャビが、ボールをコントロールし、右や左へ切り返したり、クルッと回り込むことで、組み立てプロセスに変化をつけはじめるのだ。
そう、仕掛け方針の転換・・
そして次の瞬間、チキタカに参加していた周りの味方も、シャビの「方針転換」アクションに呼応するかのように、散り散りにポジションを移動させていった。
仕掛けプロセスを柔軟に変えられるだけでも超一流の証。
でもヤツらは、そこから再び、タイプの違う仕掛けを、それも効果的に繰り出していっちゃうのだから始末に負えない。
舌を巻いた。
そして、ボールをもつコントロールタワーのシャビは、今度は、サイドゾーンへ上がってきていたダニエウ・アウヴェスへ展開パスを回し、自身は、そのまま中央ゾーンへ入っていった。
さて・・
そのとき私は、ダニ・アウヴェスが、そのままタテへドリブルで勝負し、クロスを送り込むものとばかり思っていた。でも、そんな予想は見事に裏切られてしまう。
そう、ダニ・アウヴェスは、タテではなく、中央ゾーンへ(ドリブルで)切り込んでいったのだ。中央ゾーンは、先ほどの「チキタカ」もあって、相手選手の密度が高いのに・・
そして次の瞬間、バルサの天才コンビネーションが炸裂した。
ダニ・アウヴェスから、「ワンのバス」が飛び、それを受けたシャビが、そのまま寄ってくるダニ・アウヴェスへ、ダイレクトでリターンパスを返したのだ。
動揺する相手ディフェンスブロック。彼らの視線と意識は、この2人に引き寄せられる。
それが勝負の瞬間だった。
ダニ・アウヴェスの脳裏には、完璧に、最終勝負のコンビネーション・イメージが描かれていた。
そして、シャビからのリターンパスを受けたダニ・アウヴェスは、これまたダイレクトで、逆サイドの(ファーポスト)スペースへ向けて、斜めのスルーパスをブチ込んだのである。
そこには、逆サイドにポジションを取っていた(爆発フリーランニングをタメていた!!)ペドロが、まさに影武者のように、ベストタイミングで走り込んでいた。
そう、「ワン・ツー・スリー&シュート」というレベルを超えた最終勝負である。
まさに、夢のようなコンビネーション。誰もが息を呑み、舌を巻いた。
ペドロの右足一閃。
蹴られたボールが、相手ゴールの右サイド(遠い方のポスト)際へ飛び込んでいったことは言うまでもない。
■相手ディフェンスの「イメージ」を超越する・・
この二つの「例」以外にも、バルサは、本当に多くのスーパーゴールを決めている。
相手の守備ブロックは、例外なく世界の超一流ばかり。それも、バルサが相手ということで、ブロックを強化している。
でもバルサの天才たちは、そんな強者ディフェンスを振り回し、ウラの決定的スペースを攻略してしまうのだ。
まさに、一流のディフェンスイメージを超越する、超一流の創造的イメージシンクロ・コンビネーション(人とボールの動き)ではないか。
個のチカラで、世界中の誰もが認める超一流プレイヤー軍団。そんな彼らが、攻守にわたるコレクティブ(組織的)なハードワークにも精進する。
最近のバイエルン・ミュンヘンも含め、このような、「個」と「組織」が、ハイレベルにバランスするチームが、世界のサッカー(イメージ)を牽引するのは、本当に良いことだ。
何といっても、サッカーの理想型は、美しく勝つことなのだから。