The Core Column(36)_欧州プロサッカーの構造的な変化がつづいている!?・・世界的な情報化の効用
■同国クラブ同士のUEFAチャンピオンズリーグ決勝・・
ありゃりゃ・・
昨年につづいて、今年(2013-2014年シーズン)も、同国クラブ同士の決勝ということになってしまった。それも、史上初の同都市(マドリード)ダービーだぜ。
レアル・マドリー対アトレティコ・マドリー。
ところでチャンピオンズリーグ決勝。これまで同国クラブによる決勝は、4度あったっけ。
1999-2000年シーズン決勝では、リーガエスパニョーラ勢同士が当たり(レアル・マドリード対バレンシア)、2002-2003年シーズンではセリエA対決(ミラン対ユーヴェントス)。
2007-2008年シーズンの決勝ではプレミアのマンUとチェルシー、そして昨シーズン(2012-2013年)には、ブンデスリーガの両雄(バイエルン・ミュンヘンとボルシア・ドルトムント)が覇権を争った。
ということで、今シーズンの決勝が5度目(スペイン勢同士は2回目)ということになる。
■公共性の高いドイツのクラブが台頭!?・・
もちろん、すべて「欧州ブランド・リーグ」のクラブだ。そう、スペイン、イングランド、イタリア、そしてドイツ。
あらためて振りかえってみると、同国クラブ同士の決勝という現象は、ヨーロッパ各国リーグの、財力をベースにした勢力図そのものだと思えてくるじゃないか。
特に、イングランド、スペイン、イタリアという三カ国は、世界中のカネが集まる金満リーグだ。
またここにきて、オーバーフローしたカネが、ブランド国以外の、例えばフランス(パリ・サンジェルマン)等にも流れ込むようになっている。まあ、ロシアは「自前」だけれど・・。
でも、ドイツ(ブンデスリーガ=連邦リーグ!)は、チト趣(おもむき)が違う。
バイエルンにしてもドルトムントにしても、堅実に運営(経営)する公共性の高い(市民)クラブというのが基本であり、どこかの国のクラブのように、外国資本に身売りする(実質的なマネージメント権を牛耳られる!?)ことなどあり得ないのだ。
多くの借金をしたり、巨大スポンサー(世界屈指の超リッチオーナーやオイル&ガスマネー!?)などによって「世界選抜チーム」を作りあげようとする金満リーグとは、事情が異なるのである。
■チャンピオンズリーグ決勝で、ドイツのクラブが対峙したことの意味合い・・
そんな経営(ドイツでは運営!?)基盤という意味で、ドイツ同士の決戦になった昨シーズン(2012-2013年)は、ちょっと異質な雰囲気が漂(ただよ)っていたものだ。
決勝で二つのドイツクラブが対峙したことは、それまでのチャンピオンズリーグの趨勢(すうせい)からすれば、まさに想定外の出来事だったのである。
だから今回は、その背景要因を探っていこうと思った。
そう、欧州プロサッカーに「構造的な変化の兆しが・・!?」というディスカッション。
もちろん仮説レベルのハナシだが、ヨーロッパのエキスパート連中と話し合うなかから見えてきた変化の潮流と、そのコノテーション(言外に含蓄される意味)について、自分なりの考えをまとめようと思ったのである。
何せ、ドイツを代表する二つのクラブが、驚くことに、ヨーロッパの頂点を決するファイナルまで上り詰めたんだぜ。この刺激的な出来事は何を示唆しているのか、仮説をたてて探ってみたくもなるじゃないか。
もちろん、不確実なファクターが満載のサッカーだから、単に、偶発的な要因がうまく積み重なった結果だという見方もできるだろう。
でも私は、その背景に、欧州プロサッカーの「構造的な変化」という要素「も」内包されていると考えているわけだ。
私は、基本的には「現場」の人間だから、一つの仮説にこだわりたい。
それは、世界的な情報化の進展によって、「ホンモノの良い選手」が、格段に増えてきているという仮説だ。
■世界的な情報化が、サッカーを進化させるメカニズム・・
ホンモノの良い選手が増えてきている・・!?
それは、あるレベル以上の(才能ベースの!)能力を有するプロ選手の、攻守にわたる実質的なクオリティーが「高次平準化」する傾向にあるという視点とも言い換えられる。
私は、その背景に、こんな、世界サッカー進化のメカニズムが潜んでいると思っているのだ。
スタートラインは、世界的な情報化が、隅々にまで浸透しつづけているという視点。そのことで、世界のどこにいても、トップレベルのプロサッカーを「映像」で観られるようになった。
そう、次代を担う(才能ある!)ユース選手たちが、最高のイメージトレーニング素材を手に入れたのだ。それは、とてつもなく大きな出来事だ。何せ、サッカースキル向上のベースは、何といっても「真似する」ことなのだから。
ただし、そこには・・
たしかに、才能に恵まれた若者は、イメージ素材を真似しようとする主体的なプロセスを経ることで、スキルは着実に進歩していくだろう。でもそこには、「だからといって、すぐにホンモノの良い選手になれるわけではない・・」という現実もある。
「そうなんだよ・・オレの国でも、子供たちは、世界トップのサッカーをテレビで観られるようになっているから、テクニック(スキル)とか、戦術的な発想では、大きく進歩しているとは思うんだ・・」
ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が主催する国際会議。
そこで知り合いになった南米のプロコーチと話しているなかで、情報化とコーチングというテーマが話題にのぼったんだよ。彼はアルゼンチンからの参加者だったと思う。
彼もまた、私と同様に、ドイツのプロコーチ養成コースを卒業した。たしか、両親のどちらかがドイツ系だったはずだ。
「特にさ、才能あるユース選手が、テクニックや戦術的な部分で、効果的なイメージトレーニング素材を得たことは大きいよな・・才能があるからこそ、よりうまく真似できるだろうし・・それでこそ、ヤツらの才能が最高レベルで発揮されるというわけさ・・そして、もう一つ」
ここで彼は、とても大事なポイントを指摘した。
「それに・・オレたちの(才能ある)ユース選手が、世界トッププロサッカーを観るなかで、明らかに自分よりも数段上の強者(天才!?)連中が、攻守のハードワークにも全力で取り組んでいる姿を目の当たりに出来るというポイントも、とても大事だよな・・」
彼の語りが、ヒートアップしていく。
「もちろん、スーパークラスの天才連中は、守備をサボったりするけれど・・それ以外の有名なトッププロ選手たちが、攻守にわたって走り回り、汗かきのハー ドワークにも全力で取り組んでいる姿をテレビで観せられるんだよ・・オレ達のユース選手にとって、それ以上の刺激はないよな・・」
彼は、実際に、その(波及!?)効果を体感していると言う。
「そうなんだよ・・だからオレ達コーチも、特に才能に恵まれたユース選手たちに対して、ボールを扱うテクニックだけじゃなく、その周りで行われている攻守のハードワークもとても大事だし、それがなければ世界には通用しないんだって指摘しやすくなるっちゅうわけさ・・」
彼のハナシは止まらない。
「オレたちの才能あるユース選手にしても、目指すのは、ヨーロッパのトップリーグだからサ・・そんな子たちが、オレたちの国が輩出したスーパースター連中が、攻守にわたって汗かきのハードワークにも全力を尽くしている姿を目の当たりにするんだからね・・」
彼は、そのことは、南米のどの国でも同じだと言っていた。
もちろん南米に限らず、世界中で、そんな「構造的な進化のルーツ」が根付きはじめているのである。
■そして、「ホンモノの良い選手」へと脱皮していく・・
才能あふれる、世界中の「上澄み」のユース選手たち。
彼らは、情報化の進展によって(これまた!)レベルアップしている自国の育成システムを基盤に、より「充実したカタチ」で成長し、世界中に張りめぐらされているスカウティング情報網を通じて、欧州のトップクラブ(その下部組織!?)へとステップアップしていく。
そして、そこでの厳しい(競争)環境に揉まれ、実戦での体感を積み重ねることによって、ボール扱いが上手いだけではなく、攻守にわたる組織的なチーム(ハード)ワークにも長けた「ホンモノの良い選手」へと脱皮していくのだ。
とはいっても、一つのクラブのトップチームでレギュラーを張れるプレーヤーの「枠」は限られている。だから、そんな優れたプロ選手たちは、再び、高度に発達したプレイヤー情報の還流システムに乗り、より広範なヨーロッパ各国のリーグへと活躍の場を移していく。
欧州クラブのチカラが全体的に底上げしていくのも道理じゃないか。
そしてそのことが、国際レベルや国内リーグにおいて、弱者と思われていたクラブが強者に打ち勝つ「下克上」を、より頻繁に成就させるバックボーンになるというわけだ。
そんな背景要因があるから、バイエルンやボルシア(ドルトムント)にしても、国内リーグでは、弱者(そのイメージが先行している!?)クラブから狙い撃ちされるのである。
■欧州プロサッカーの構造的な変化(進化!?)が、不可逆的に進行していく!?・・
このコラムでは、世界的な情報化をベースにした選手クオリティーの「高次平準化」が、欧州クラブサッカーの構造的な変化を、不可逆的に進行させていくはずだ・・ということが言いたかった。
そして私は、そのことによって、チーム作りのイニシアチブが、「カネ」を牛耳るクラブの統治マネージメントから、監督やコーチ、はたまた現場のダイレクターへと回帰していく「傾向」を後押しするに違いないと思っている(期待している!?)わけだ。
健全な「展開」ベクトルじゃないか。
オレって、まだまだ、ナイーブ(naive・・意味はご自分でお調べください!)でしょ・・あははっ。