The Core Column(7)__本場でも通用する俊敏で器用な小兵タイプ・・でも、その内実は

■香川真司・・

「この1年で、シンジの何が変わったかって?・・そりゃ、何といっても(特に精神的に!?)逞しくなったことだろうな・・自信を深めるにしたがってプレー内容も良くなっていく・・そんなポジティブなサイクルが、どんどん加速していると感じるよ・・」

再び、バイエルン・ミュンヘンと並び、ブンデスリーガを代表する存在にまで上り詰めたボルシア・ドルトムント。

その若き智将、ユルゲン・クロップが、私の投げた香川真司についての質問に、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

「なでしこ」が、ドイツ女子ワールドカップで世界の頂点に立った2011年7月のことだ。

香川真司は、2010年7月にセレッソ大阪から移籍し、いきなり、ドルトムントの2年連続リーグ優勝に大きく貢献してしまう。そしてその後、2012年6月、「あの」マンチェスター・ユナイテッドへとステップアップ(!?)していくのである。

とはいっても、マンUの新監督、デイヴィッド・モイーズのもとでは、(この時点でのハナシだけれど・・)チーム内のポジションをアップできているとは言い難い。

試合に出場できていない香川真司。だからなんだろう、一昨日(2013年10月11日)に行われた親善試合、セルビア戦でのプレーぶりは、それまでの自信あふれるモノとは、かけ離れて低調だった。

もちろん「こちら」は、(モイーズに対して!?)どうしてもっと香川真司にチャンスを与えないんだ・・などと不満タラタラなのだが、それは、全て監督マターなのだから、どうしようもない。

プロ監督は、結果に対する責任を一身に背負い込む。だからこそ、成功したときは、その存在が、ひときわ眩(まばゆ)く輝く。

もちろん、その輝きにしても一瞬のことにしか過ぎないけれど・・。それが、プロコーチ(プロ監督)という仕事なのである。

そんな(プロ)コーチと(プロ)選手の、パーソナリティーという心理面も含む「関係」。

よく我々コーチの間では、「巡り合わせ」という表現を使うのだが、選手の行く末は、そんなコーチ(監督)との出会い(その内容)によって全てが決まるといっても過言ではない。

まあ、そのテーマについては、機会を改めることにしよう。

■セレッソ出身の、小兵トリオ・・

そんな「出会いメカニズム」のなかで、うまくいった好例が、香川真司なのだろう。

「シンジがここまでやるとは・・正直、驚かされたよ・・」

香川について、友人のドイツ人プロコーチがそんなことを言った。

彼は、移籍した当初、遠慮がちにプレーする姿からは、プロのどん欲さが感じられなかったと言っていたのだ。ただその香川が、誰もが驚く大ブレイクを果たすのである。

ドルトムント監督ユルゲン・クロップは、香川真司が秘める組織プレイヤーとしての優れた特性をしっかりと理解し、香川自身の「意識と意志」のアップも含めて着実に開花させた。そして、それを最大限に活かすことでチーム力アップにつなげた。

ユルゲン・クロップの、プロコーチとしての能力の高さと、人間(心理マネージャー)としての懐の深さ。その証明として、これ以上のモノはない。

ユルゲンと香川の、幸福な巡り合わせ・・

冒頭のユルゲン・クロップのコメントでも、まず最初に「心理的に逞しくなった・・」というポイントを挙げていたのが印象的だった。

秘めたる才能が、これ以上ないほどに花開いた香川真司。その発展プロセスを見ながら、今さらながらに、「環境こそが人を育てる」という普遍的なコンセプトをかみ締めたものだ。

ということで、本場で活躍する(できる)日本の小兵タイプというテーマ・・

香川真司の活躍に刺激されたことで(!?)、同じセレッソ大阪でチームメイトだった若武者2人が、ドイツへ渡ることになる。

香川の1年後(2011年)には乾貴士(現在はフランクフルト)が、その1年後(2012年)には清武弘嗣(ニュルンベルク)が・・

この3人は、日本代表でも攻撃的ハーフのポジションを競り合う間柄だが、そんな彼らにとって重要なことは、所属チームで、しっかりと主力メンバーの一角を占めていることだ。

昨シーズン(2012-13年)は、マンUの香川真司も含め、その目標は、ある程度は達成できた。ただ今シーズンは・・

■3人のプレースタイルと、共通する価値・・

ところで、この3人のプレースタイルだが、それは、微妙なニュアンスで、少しずつちがう。

香川真司はパスコンビネーションの「加速装置」として最高の強みを発揮するし、乾貴士は、ドリブル&シュートで「も」存在感を発揮している。また清武弘嗣は、オールラウンドタイプ(器用貧乏!?)と言えるかもしれない。

もちろん共通する特長と価値(強み)は明白だ。

3人ともに、俊敏で器用な小兵タイプ(3人とも170センチそこそこ!)であり、攻守にわたる組織プレーイメージ(その実践力)にも優れているのである。

それは、とても重要なことだ。

ヨーロッパでは、以前から、テクニックに優れた俊敏なプレイヤーという東アジア人の特長はよく知られていた。ただ、特に身体のサイズが170センチそこそこの小兵では、テクニックやスピードが並外れていなければ、結局はパワーで潰されてしまうという評価も定着していた。

それは、そうだ。大柄で足も速いヨーロッパ選手と、身体をぶつけながら競り合ったら、敵(かな)うはずがない。

ただ、そんなマイナスイメージは、この3人の活躍もあって、徐々に払拭されつつある。

そう、そのバックボーンこそ、相手とのフィジカルな接触をできるかぎり回避する、シンプルな組織プレー感覚なのである。

・・そうなんだよ・・カガ~ワは、とにかくボールがないところでのプレーの量と質「も」素晴らしいから、シンプルなコンビネーションの起点として、チーム メイトにも抜群に信頼されている・・彼にパスが出たら、次の瞬間には、まわりの複数のチームメイトたちが、スペースへダッシュするっちゅう感じだな・・

・・まあ、シンプルな組織プレーで人とボールの動きを加速させられるという意味じゃ、イヌイにしてもキヨタケにしても、同じレベルのクオリティーを魅せていると思うよ・・

友人のドイツ人プロコーチ連中も、異口同音に、そんなニュアンスを示唆していたっけ。

■ドイツにおける小兵プレイヤーの歴史・・

ところで、ドイツ。

「小さな名選手」としてドイツ史に残っているのは、言わずと知れたピエール・リトバルスキーが筆頭だろう。また、トーマス・ヘスラーとか、メーメット・ショル、はたまた現在では、マリオ・ゲッツェ、マルコ・マーリンといったところだろうか。

ただ彼らは、器用で小回りが効くだけではなく、例外なく、フィジカルでの「強さ」も併せもつ。

もちろん、同等の条件で、ガチンコにぶつかり合ったら、大柄な選手に敵(かな)うはずがない。ただ彼らは、それぞれに、体格の不利をカバーできるだけの「何らかの特徴的ノウハウ」をもっているものなのだ。

屈強な欧州ディフェンダーと肩をぶつけ合っても、決して吹っ飛ばされることのない素晴らしいバランス感覚(体幹の強さ)やパワーだけじゃなく、身体の入れ方など、彼らなりの「スキル的工夫」も、随所で効果を発揮しているのである。

だから、守備に入っても、そこそこの実効プレーを展開できる。

そしてもう一つ。

ここが、セレッソの小兵コンビが大きく「差」を付けられてしまうポイントなのだが、とにかく、ドリブル勝負が、ものすごく危険なのだ。

もちろんセレッソコンビも、良いカタチでスペースへ「走り込んで」パスを受けられたら、その勢いそのままのトップスピードで突破ドリブルも仕掛けられる。

でも、足を止め、大柄でスピードのある相手ディフェンダーと「正対」した状態から、スピードだけではなく、フェイント&切り返しなどのスキルを駆使して、相手を置き去りにしてしまうようなシーンは、希だ。

■アラン・シモンセンという、天才小兵プレイヤー・・

ところで、ドイツ・ブンデスリーガで活躍した外国人「小兵プレイヤー」というテーマだが、そこで忘れてはならない選手がいる。

1977年に「ヨーロッパ最優秀選手」に選ばれ、バロンドールを獲得したアラン・シモンセン。FCバルセロナでも、4シーズンにわたって、歴史に残る活躍を魅せた。

デンマークサッカーの歴史的な英雄でもある彼は、1972年に、ブンデスリーガの雄、ボルシア・メンヘングラッドバッハへ、デンマークのヴェイレBKから移籍してきた。

そのアラン・シモンセンを発掘したのが、例の、ドイツサッカー史に燦然(さんぜん)と輝くスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーだったのだ。

私は、その年(大学二年の夏休み=1974年)にドイツ旅行へ出掛けたのだが、ものすごくラッキーなことに、そのアラン・シモンセンの、メンヘングラッドバッハでのテストマッチ(イングランド、リバープールとのプレシーズンマッチだったと思う・・)を観戦できた。

ある方を介して紹介された、ドイツの地方サッカー協会の会長さんに招待されたのだが、試合後のレセプションにも紛れ込み、憧れのヘネス・ヴァイスヴァイラーにも紹介された。

冷や汗が出た。でも日本びいきのヘネス・ヴァイスヴァイラーは、「そうか・・そうか・・オマエは日本から来たのか・・」と、歓待してくれたものだ。

あっと・・、そのアラン・シモンセンのプレー。

屈強なイングランド人ディフェンダーが仕掛ける、暴力的なまでの強烈アタックを、ボールをヒョイッと浮かせたり、鋭いフェイントや切り返しで軽快にかわし、彼らをキリキリ舞いさせた。

そんなボール絡みのプレーだけではなく、シンプルな展開パスや、ボールがないところでの効果的なプレーによって、組織コンビネーションも、しっかりと加速させてしまう。また、守備でも、素晴らしいセンスを発揮した。

今でも、そのときの光景が目に浮かぶ。シモンセンの印象は、とにかく強烈だったのである。

・・あの小さな身体で、巨体ディフェンダーたちをキリキリ舞いさせる・・見事だ・・ホントに鳥肌が立つ・・ドイツ人のエキスパート連中も声が出ない・・流石(さすが)に、ヘネス・ヴァイスヴァイラー・・見る目が違う(・・というか、良いスカウトを従えている!?)・・

そんなことを思ったものだ。

■そして日本の小兵プレイヤーたち・・

彼らの存在価値は、主に、組織コンビネーションの「加速装置」として発揮されている。

そう、彼らに対する期待は、組織サッカー的な部分に特化されているのだ。

パスを受けるためのアイデアあふれる動き。視野の広さや素早さだけではなく、巧みに、相手の視界から「消え」たりする。だから、フリーでパスを受け、余裕をもってボールを扱える。

そして、素早いボールコントロールで相手アタックをかわしたり、ダイレクトパスコンビネーションを駆使することで相手とのフィジカルな接触を回避しながら、スペースを攻略し、シュートを打つという攻撃の目的を達成しようとする。

もちろん、ある程度フリーでパスを受けられれば、より有利なカタチで必殺のドリブル勝負だってブチかませる。

2011年ドイツ女子ワールドカップで世界から称賛された「なでしこ」もまた、まさに、そんな「究極の組織サッカー」で世界の頂点に立ったのである。

ただ、今の香川真司や乾貴士がそうであるように、徐々に、「それだけ」では満足されなくなってきているのかもしれない。

もちろん、例えば香川真司だったら、ボルシア・ドルトムントのユルゲン・クロップが前面に押し出すチーム戦術コンセプトの下では、まだまだ大きな活躍と発展が期待できる。

ただ、いまのマンUにしても、フランクフルトにしても、彼らには、「それ以上のモノ」が要求されるようになってきていると思うのだ。

・・(前述した、正対した状態からの!)ドリブル突破能力・・強引なドリブルシュート・・はたまた、守備での、忠実でダイナミックなチェイス&チェックや、実際のボール奪取アタックも含む守備での「より」実効ある貢献・・などなど・・

そう、組織プレーに加えて、攻守にわたる「個人プレー」もまた、より高いレベルで要求されるようになってきているのだ。

サッカーの本場でも通用し、活躍できる、俊敏で器用な小兵(攻撃的ハーフ)タイプ。

この3人によって日本にフィードバックされる魅力的なアピールがある。

たしかにそれは、次代をになう日本のユース選手に大いなる夢と希望を与えているし、日本サッカーの将来にとって、とても意義深いことだ。

ただ同時に、フィードバックされているアピールの内実には、ポジティブとネガティブの二面性が内包されていることも、しっかりと見据える必要がある。

そう、攻守にわたる組織プレーと個人勝負プレーの高度なバランスという普遍的テーマ。

そのことが言いたかった。