The Core Column(11)__ ファーガソンが魅せた絶妙な采配・・対処戦術の内実とは?

■サー・アレックス・ファーガソンの興味深い発言・・

「前半は必要以上に後手に回ってしまった・・多くのチャンスを作られたから、ヒヤヒヤした・・でも後半は、違ったゲームを展開できたと思 う・・たしかにポゼッションではレアルに分があったけれど、我々もチャンスを作り出せるようになった・・特に、ウェルベックを、シャビ・アロンソにマッチ アップさせてからはゲームの流れが変わったと思うよ・・」

2012-13年シーズンのUEFAチャンピオンズリーグでのこと。

決勝トーナメント1回戦。その第1レグで、レアル・マドリー(以下レアル)とマンチェスター・ユナイテッド(以下マンU)が、マドリードで激突し、マンUが引き分けに持ち込んだ。

そのゲームについて、マンU監督サー・アレックス・ファーガソンが、冒頭のような興味深いコメントを、クラブ公式HPを通じて公表したのだ。

たしかに全体的なゲームの流れでは、積極的なプレッシング守備をベースに、ホームのレアルがイニシアチブを握った。シュート数や決定機といった「数字」でも、そのことは明白だ。

でも、実質的な勝負の流れでは、どうだったのだろうか・・

■試合の流れが変わっていく・・

たしかに前半のマンUは、レアルがブチかましつづけた大迫力のプレッシング守備に圧され、次の攻撃で、うまくサポートを繰り出していけなかった。

そうなったら、攻撃に「厚み」がなくなり、単発になってしまうのも道理。

ただ「1対1」で迎えた後半は、流れが変わる。ゲームの趨勢(すうせい)が、徐々に、動的に均衡しはじめていったのだ。

そんなゲームの流れの変容は、マンUの「前への意志」がアップしたこと、そして、レアルのプレッシング守備の勢いが減退していったことが相俟(ま)って生じたということなんだろう。

ここで、マンUの意志アップと、レアル守備のダウン傾向の「どちらが主因・・??」なんていうディスカッションを展開するつもりはない。

それこそ、「ニワトリが先かタマゴが先か・・」なんていう、不毛な議論になってしまう。

サッカーとは、これ以上ないほどの「相対的なボールゲーム」なのである。

そしてゲームは、そんな「フェアなせめぎ合い」の末に、痛み分けということで落ち着いた。

試合後の選手たちの表情は、両チームともに、とても爽(さわ)やかだった。

全力を出し切った・・ということもあったのだろうけれど、そんな表情の奥には、「まあ・・実質的なゲーム内容からすれば、フェアな結果だったよな・・」といった、体感ベースの印象もあったに違いない。

だからこそ、フェアなせめぎ合い・・

■ファーガソンが仕掛けた対処戦術・・

私は、後からビデオを見直しながら、ゲームの流れを変容させたバックボーン要素について探求しようとしていた。

何らかの「具体的で個別な要因」を探ってみたいと思ったのだ。

もちろん選手交代や基本ポジション(タスク)の調整といった「分かりやすい」ゲーム戦術プランの変更などは見える。

でも、全体的な(両チームの)意志の変化傾向・・、基本タスクの(プレーイメージの)調整、それに伴った心理・精神的な部分・・等など、「仮説ファクター」が多すぎて、簡単には(決定的な!!)要因を絞り込むまでには至らない。

そんなときに、冒頭のアレックス・ファーガソンのコメントが飛び込んできたというわけだ。

そう、「ウェルベックに、シャビ・アロンソのマークを意識させた・・」というクダリだ。

そして、食い入るようにビデオを見返した。

■後半のシャビ・アロンソは、ウェルベックによって「消され」た・・

前半、たしかに後方からシャビ・アロンソが展開する「ゲームメイク」が、とても効果的に機能していた。そのことは、しっかりと「見えて」いた。

前半のシャビ・アロンソは、フリーでボールを扱うシチュエーションが多く、大きな展開(広い組み立て)や、タテへの危険なスルーパスなど、余裕をもって攻撃をリードしていたのだ。

だからこそ、レアル前線の「個の才能」たちが、より有利なカタチで勝負プレーをブチかましていけた。

ただ、そんな、前半のレアルが握ったイニシアチブのバックボーンが、後半は、かなり「減退させられて」いたのである。

そう、マンUのウェルベックによる、執拗で効果的なマークが、シャビ・アロンソの余裕を奪い、効果的なゲーム(チャンス)メイクを繰り出していけなくなったのだ。

そして、ショート(横)パスに「逃げる」シーンがつづくようになってしまう。

サー・ファーガソンのコメントを聞き、「そこ」に注目してみたら、フムフム・・と納得がいった。

臨機応変でクレバーな「対処戦術」。見事な采配だった。

■もちろん対処戦術は、現場では日常の仕事・・

私も読売サッカークラブ時代に、そんな仕事(分析と対処戦術プランを練ること)に掛かりっ切りだった。

・・次の対戦相手の、チームとしての、また個人選手の、強みと弱みを詳細に分析する・・

・・そして、相手の強みを抑制し、逆に、こちらの強みを効果的に発揮・展開させるための詳細な戦術プランを、監督といっしょに練る・・

・・またゲーム中には、全体的な流れを読み、守備、攻撃での問題点(戦術的なキーポイント)を抽出し、対策を練る・・そして素早く決断し、実行にうつす・・

それこそが、監督・コーチの瞬発力と呼ばれるモノの本質なのだ。

運動量とスピードが格段にアップしている現代サッカーだからこそ、監督・コーチには、より柔軟でスピーディーな判断と的確な決断、そして勇気と実行力が求められるのである。

ゲーム展開を冷静に見きわめた、臨機応変で効果的な采配。

それによって、まさに劇的にゲームの流れが変わることがある。それもまた、サッカーの見所の一つなのだ。

とはいっても、良かれと思って実行した「対処戦術」が、常に効果を発揮するとは限らない。

いや、失敗したり、マイナスに作用してしまうことだって多いし、ある目的のために実行した対処戦術が、思いがけない「別の」プラス効果を生み出すことだってある。

そして、そんな偶発的な(!?)効果が出たときには、試合後の記者会見などで、「まさに、それが意図した対処戦術だった・・」などとコメントするプロ監督も多いんだよ(笑)。

私は、そんな「楽屋裏の現実」を、知っている。

だからこそ、ハーフタイムだけではなく、試合中でも、勇気と決断力をもって実行にうつした対処戦術が、まさにツボにはまってスーパーな効果を発揮したとき、快哉(かいさい)を叫ぶ「現場」の気持ちがよく分かるのだ。

でも、現実は、そんなに甘くはない。そう、そこには、両チーム監督・コーチによるだまし合い「も」あるのだ。

■現代サッカーにおいて、「現場」に求められるモノのなかで・・

現代サッカーでは、プロサッカーコーチ(監督)には、解剖学や生理学といったアカデミックな知識、戦術的な知識や応用力などだけではなく、心理マネージメント能力、はたまた政治力などなど、本当に多岐にわたるチカラが求められている。

私は、それらの底流にある最重要バックボーンには、二つあると思っている。

一つは、選手たちから信頼される誠実さ、忍耐力、はたまた人間的な魅力といった根源的なファクターも含む、監督・コーチの優れたパーソナリティー。

そしてもう一つが、戦術的な対処の絶対的ベースである、観察力だ。

戦術的な対処(実行内容)についての様々なケーススタディーから得られた知識。そして、想像力をアップさせる実行プロセスにおける体感(経験コンテンツ!)。

観察力は、そのような「要素」に支えられている・・と言えるかもしれない。

ちょっと限定しすぎかもしれないけれど、私は、そう思っている。

もちろん、ここでその二つのバックボーン要素を、より深く掘り下げていこうなどとは思わない。ただ一つだけ・・

ちょっと難しいハナシになりそうだけれど・・

・・どのような戦術的な(物理的、心理・精神的な)対処が、どのような結果を生んだのか・・そこで作用したファクターは・・等などといった「マネージメント・プロセス」について、それらの本質をしっかりと理解し、正しく記憶しておくことの大事さに対する自覚・・

そのことが言いたかった。

■そして、正しい記憶がリコールされ、ゲーム展開を逆流させる・・

冒頭のケースでは、サー・アレックス・ファーガソンは、戦術的アイデアの「瞬発力」によって、大きな成果を出した。

それは、(繰り返しになるけれど・・)何度も成功と失敗を繰り返すことで脳内に蓄積された戦術的な対処イメージ(記憶)を、正しいタイミングで呼び起こすこと(そのアイデア)によってなし遂げられた成果だったはずだ。

私も、読売サッカークラブ時代には、監督のグーテンドルフに任されて、戦術的な変更に瞬発力を発揮したと自負している。

そのなかでも、相手のエースキラーだった森栄次(現、東京ヴェルディジュニアユース監督)には大変お世話になった。

彼の、ディフェンダーとしてのユーティリティー能力は、もう抜群。とにかく、あれほど高い確率で、ゲーム中の戦術的な「エマージェンシー対処」が成功したことはなかった。

また、ディフェンダーのユーティリティー能力といったら、1994年シーズンに、ネルシーニョに率いられて年間チャンピオンに輝いたヴェルディ川崎のことも忘れられない。

その年間チャンピオンを決める、サントリーシリーズ優勝のサンフレッチェ広島との対決において、試合の途中から、臨機応変の対処によって、サンフレッチェ広島の司令塔ハシェックを完璧に抑え込んだ「カピトン」のことだ。

ネルシーニョは、第二戦でのハシェックの機能性がレベルを超えていたことで、ゲーム戦術を変え、カピトンをハシェックの(マン)マークに回したのである。それが抜群の効果を発揮した。

「瞬発力ベースの対処戦術」は、成功することもあるし、失敗することもある。

ただ「それ」が、外部の者に、実際の内容(意図)と、ネガポジ両方の「成りゆきや成果」が明確に見えてくることは少ない。

だからこそ、冒頭のマンUの例も含め、具体的な成功例を、(外部の人間が!)記憶に留めておけることは、様々な意味合いで、とても貴重なイメージ資産なのである。