The Core Column(53)__グラウンドで炸裂する(瞬間的な!?)リーダーシップ・・互いに「刺激しあう」雰囲気こそが!
■テメ~ッ!!・・もっと必死に追いかけろヨっ!!・・
ドイツ留学時代。クラブチームでプレーしていたときのことだ。
普段は、あくまでも冷静にプレーするタイプだと思っていたヤツが、急に、仲間の体たらくに対して大声で怒鳴りはじめたんだよ。ソイツの表情には、ホントに、鬼気迫るモノがあった。
そのときの我々のサッカー内容は、私も含めて、たしかに最低だった。ホントに、闘う意志が、地に落ちていたのだ。
だから、パスレシーブに走る相手をフリーで「行かせて」しまったり、攻撃でも、ボールがないところでの動きの量の質が無様にダウンし、足許パスや横(バック)パスばかりになっていた。
そう、完全な「気抜けプレー姿勢」。
それでは、相手に、決定的なスルーパスを通されちゃうのも道理。何せ、パスレシーバーに、簡単に(フリーで!!)スペースに走り込まれちゃうんだから。
もちろん、相手ボールホルダー(パサー)へのマークも甘い。だからそのボールホルダーは、余裕をもって決定的スルーパスを通しちゃったりする。
また相手パスレシーバーにしても、パサーとの余裕のアイコンタクトを交わせるなど、決定的フリーランニングを繰り出していくモティベーションも極大だ。
そんなチームの体たらくに、それまで、忠実に汗かきハードワークに奔走していた我々の「アンカー」が、怒り出したというわけだ。
普段の彼は、とても物静か。そして、目立たない攻守の汗かきハードワークを、文句も言わずに、淡々と、そして効果的にこなしている。
仲間は、才能プレイヤーたちも含めて、その忠実な「縁の下の力持ちプレー」に対して、心の底から敬意を抱いていた。
まあでも実際のところは、我々が、その忠実な汗かきハードワークに「おんぶにだっこ」することで、楽して金儲けしようとしていたっちゅうことだ。
■そしてチームの雰囲気が、ガラリと変わる・・
とにかく、その忠実アンカー氏が放った「怒りのオーラ」は、チームにとって、ものすごい刺激になったんだよ。
何せ、その怒りオーラが放散された次の瞬間から、前線からのチェイス&チェックの「勢い」が、突如として倍増したと感じられたんだからね。
もちろん私も、その刺激にケツを蹴り上げられた。
そして、自然と、相手ボールホルダーや次のパスレシーバーへのチェイス&チェックに向かって身体が動いていったんだ。そう、何かに突き上げられるかのように・・。
そう、チーム全体のディフェンスの勢いが倍増したんだよ。そして、それまで「受け身の傾向」にあったボール奪取プロセスが、信じられないくらいの勢いで活性化していった。
それにともなって、積極的な守備(ボール奪取プロセス)への意志がアップするに従って、ボールを奪い返すゾーンも「高く」なっていったコトは言うまでもない。
だから、「そこから」の次の攻撃に勢いが乗っていったのは言うまでもない。
そう、より多くのチームメイトが攻撃に参加しはじめたことで、ボールがないところでの動きの量と質(パスレシーブやスペース創造プロセス)もアップしていったのだ。
そんなだから、仕掛けの内容が充実していかないはずがないじゃないか。
そしてゲームの全体的な流れが゛逆転していったというわけだ。
不確実な要素が満載しているからこそ、本物の「心理ボールゲーム」とも言えるサッカー。
そんな「ゲーム展開の逆流」は、こちらの勢いアップによって疑心暗鬼に陥り(ビビり!?)はじめた相手チームの足が、徐々に止まりはじめたからに他ならなかったのである。
ドイツ伝説のスーパープロコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、私に、こんなニュアンスの教えを与えてくれたことがあった。
・・いいか・・オマエたちは、いかに相手を「勘違い」させるのかというテーマにも、積極的に取り組んでいくんだぞ・・そのためにこそ、才能あるヤツ等も含めたチーム一丸で、ココゾッていうタイミングで、本物のハードワークをブチかませるコトが重要になるんだ・・
■ラモス瑠偉・・
今回コラムのテーマは、急激なゲーム展開の逆流現象を引き起こす「刺激」。
私が読売サッカークラブでコーチをしていたときにも、ソレを体感したことがあった。
もう何度か「本編コラム」でも書き綴ったけれど、その昔、磐田のグラウンドで、ヤマハ発動機サッカー部とトレーニングマッチをやったときのことだ。
ゲームの立ち上がりは、我々がペースを握り、先制ゴールまで叩き込んだ。
でも、その後がいけなかった。
気が緩んだ(緊張感を失った!?)ことで、そこから、一点を追いかけるヤマハに主導権を握られてしまったんだ。
そう、ガンガンと押しまくられるジリ貧の展開。
当時のヤマハでは、山本昌邦とか柳下正明、石神良訓や長澤和明といった強者どもが気を吐いていた。
だから、いくら個の能力に長けている読売サッカークラブとはいっても、そう簡単にやり込められるはずもなかったのだ。
とにかく、我々が落ち込んでしまった劣勢は、ちょっとレベルを超えていた。
誰もしっかりと走らない。闘わない。またボールを奪い返しても、横パスやバックパスに「逃げる」ばかり。
そんな体たらくに、業を煮やした一人のプレイヤーがエモーションを爆発させた。
そう、ラモス瑠偉。
カリオカ(ラモス瑠偉の愛称)は、誰よりも負けず嫌いだ。そんな彼にしたら、ヤマハに押しまくられるゲーム展開など、耐えられるはずがなかったんだよ。
そして、堪忍袋の緒が切れたカリオカが、チームメイトに怒鳴りはじめたのだ。
・・なにやってんだ~っ!!・・もっと(相手ボールホルダーへ!)寄せていけ~・・なんで次のパスを狙ってないんだ~っ!!・・もっと、しっかりマークに付いて戻れ~っ!!・・何をビビッてやがる・・フザケルナよ~っ!!・・
・・等など。
それは、それは、大変な剣幕なのである。そう、これ以上ないほどの強烈な刺激。
ベンチに座る我々も含め、誰もが、カリオカのなかで「何かが弾けた・・」と感じていた。
そして、怒鳴り散らしながらフルスプリントでチェイス&チェックを(相手ボールホルダーや次のパスレシーバーへの全力での寄せを!)ブチかましつづけるんだ。
言うまでもないけれど、そんなカリオカを中心に、チームの「動き」が戻っていった。
ジリ貧のゲーム展開(心理的な悪魔のサイクル!?)。そこから、効果的に抜け出す方法は、一つしかない。
それは、守備(ボール奪取プロセス)へ注入するエネルギーを倍増することなのだ。ホントに、それしか、効果的な方法はないんだよ。
「言い出しっぺ」は、カリオカ。だから、前述した「激烈な𠮟咤」をブチかましながら、彼の攻守ハードワーク内容が急激にアップしていくのも道理だった。
特にチェイス&チェックの勢いは、レベルを超えていた。だからこそカリオカは、周りのチームメイトの闘う意志を、スムーズに高揚させられたっちゅうわけだ。
たまに、言うだけで闘わないヤツを見掛ける。そう、単なる「口先番長」。それじゃ、決して「何かを動かす」ことなんか出来ない。
そのトレーニングマッチの結果については、実は覚えていない。でもその後の読売サッカークラブが、そのままの高みのペースでゲームの主導権を握りつづけたことは言うまでもない。
私は、そんな顛末を体感しながら、いくらテクニックやスキルが巧みでも、いくらグループ戦術レベルが高くても、攻守ハードワークという「絶対的なバックボーン」が伴わなければ、単なる宝の持ち腐れにしか過ぎない・・という確かなコンセプトを噛みしめていた。
いまラモス瑠偉は、FC岐阜の監督として活躍しているけれど、今シーズンは、機会をみてヤツのゲームも観てみることにしよう。
ところで、以前、「The 対談」という連載にチャレンジしたことがあったのだが(結局は、めげてしまったけれど!)、そのなかで、カリオカとのディスカッションを記事にしたことがあった。
興味がある方は、「そのコラム」も参照していただければ幸いだ。
■ということで、再確認・・やはり守備の活性化こそが最重要ポイントという事実・・
今回コラムでは、擬似の悪魔サイクル(!?)から抜け出すための「意志の活性化」というのがテーマだった。
もちろん、そんな状況から抜け出す(心理・物理的な!)プロセスは千差万別。
ということで今回は、一人がブチかます、何らかの爆発的な刺激による「チームの闘う意志の活性化」というテーマにスポットライトを当てようと思ったわけだ。
闘う意志。
(前段のコラム内容で触れたとおり!?)そのダイナミズムを高揚させるためには、まず何といっても、守備に全力を傾注すること(守備意識のアップ)からリスタートしなければならない。
そして、ハードワークの活性化が、組織ディフェンスの「連動性」をアップさせ、より「高い」ゾーンでの(美しい!?)インターセプトや、相手トラップの瞬間を狙った効果的なアタックにつながる。
そんなふうに、守備(ボール奪取プロセスへの意志!)が活性化していけば、おのずと、次の攻撃もダイナミックに変身していくはずだ。
そう、ボールがないところでの動きの量と質のアップや、ボール周りでのリスクチャレンジ姿勢の高揚などなど。
そう、守備から全てがはじまる。そのことが言いたかった。
■そして、グラウンドで炸裂する(瞬間的な!?)リーダーシップというテーマへ・・
今回コラムでは、別にキャプテンでも何でもないヤツの怒りの発露(はつろ)が、チーム全体の闘う意志を活性化した二つのケースを例に挙げた。
チームが試合中に苦境に陥ったとき、チームメイトたちの「情緒」を活性化し、一つの方向へ「意志統一」させることで悪循環から脱出させられるような選手(その刺激!)。
そんな「強烈な刺激」をブチかませるような選手が出現すれば、それって、(その時点での!)完璧なグラウンド上のリーダーでしょ。
そう、強烈な刺激をブチかますリーダー。
チームの誰もが、「何か」から目覚めさせられるような、刺激。
何か・・
もちろんそれは、(リスクから逃げるような!)消極的プレー姿勢のことだけれど、その背景には、失敗すること(ミスを犯すこと)に対する恐怖心などの「情緒の深み」がある!?
さまざまなコノテーション(言外に含蓄される意味)を内包する「自己」という存在をプロテクトするために受け身になり、そこから飛び出ることを躊躇(ためら)う後ろ向きの心理!?
そんな(サッカーにとっては!)ネガティブな情緒が支配する(見え方としては!)落ち着いたチームの雰囲気。
そんなところから、リスクへチャレンジしていく、勇気あふれる積極性など出てくるはずがない。
難しい。
それは、怒り(たまには蛮勇とも思える積極性!?)と冷静さを、これ以上ないほどの『高みでバランスさせる』というテーマにもつながるディスカッションだから・・ね。
よく言うじゃありませんか・・
・・心のなかは冷めている(冷静だ)けれど、表面に出てくる言動は激烈・・とか、あくまでも冷徹に、そして激しく闘わなければダメだ・・とかサ・・。
そういえば、前出した「刺激クリエイター」の二人とも、事後的に、そのときの感性(情緒)について話し合ったことがあるんだよ。
冒頭のドイツ人プレイヤーにしても、カリオカにしても、異口同音に、こんなニュアンスの表現をしていたっけ。曰く・・
・・たしかに、その瞬間はアタマにきていた・・だから、その怒りを表現しないわけにゃ、いかなかった・・いや、抑え切れなかったと言った方が正確かな・・
・・でも、すぐに心は冷静になったよ・・でも、爆発しちゃった手前、自分から率先して「行かざるを得なくなった」・・だから、チーム戦術的な決まり事とは関係なく、行っちゃった(積極的にチェイス&チェックをブチかました!)・・
・・でも結局、その、怒鳴りながらの(表面的には!?)激高したアクションが、チームを刺激して、全体的なサッカーが再びダイナミックに活性化していったよな・・
・・でもサ、すぐに冷静になったのは確かなコトだったんだ・・
・・だから、罵声を浴びせたヤツには、すぐに、目くばせとか言葉で、埋め合わせたんだ・・もちろん、激しい攻守のアクションをつづけながらネ・・
フムフム・・。
■互いに「刺激」し合うための「解放」というテーマ・・そう、監督コーチの心理マネージメント・・
まあ、プロコーチ(監督)にとっては、永遠のテーマだろうな。
チームは、「冷静に・・」と言ったら、全体の雰囲気が落ち着き「過ぎて」しまうことの方が多いだろうし、「もっと積極的に、アグレッシブに・・」と言えば、往々にして「激烈に過ぎて」しまったりする。
まあ、テーマは、プロコーチ(監督)の多面性ということに落ち着くのかもしれないな。
そう、大きく「揺動する情緒を見せること」で、チームに対して、目的に応じた「臨機応変で適当な刺激」を与えつづけられるような心理マネージメント・・っちゅうテーマだ。
「The Core Column」で、以前、「二面性パーソナリティー・・」ってなテーマで、「こんなコラム」を発表したことがあった。でもそれは、選手のパーソナリティーの「在り方」についてだったよな。
ここでディスカッションしたいのは、プロコーチのソレだから・・。
要は、心のなかでは、アイスコールドな冷静さを保ちながら、具体的な言動では、激烈な「刺激」をブチかましたり、逆に、チームの雰囲気が興奮しているときは、どんな刺激にも動じない「冷静なリーダーシップ」を発揮したりする。
もちろん、そんな「メリハリ心理マネージメント」をマスターするには大変な努力が要るし、そのメカニズムを志向しているにもかかわらず、たまには感情に押し流されてしまうような事態だって発生しちゃったりするよな。
逆に、そんなプロコーチ(監督)の理不尽な興奮を、とても冷静に受け止め、落ち着かせることが出来るような「大人のプレイヤー」がいたりする。
まあ、そんな風に、互いに刺激し合いながら、意志の内実も含めた、チームの心理環境のレベルがアップし、本物の「闘うグループ」へと脱皮していく・・っちゅうことなんだろうな。
そんな、「プロコーチ(監督)による、変化に富んだ心理マネージメント・・」とか、「選手とプロコーチ(監督)の、心理的な絡み合い(=パーソナリティー のぶつかり合い!)」とかいったテーマについては、これからも、様々なカタチでディスカッションを繰り返していきたいね。
ちなみに・・
前述した、「選手の二面性パーソナリティー・・」ってなテーマのコラムとは別に、「監督のストロングハンドの神髄・・」なんていうコラムも発表しているから、「そちら」もご参照アレ。