The Core Column(55)_3人目、4人目のフリーランニング・・美しく優れたサッカーは、クリエイティブなムダ走りの積み重ね・・そして浦和レッズ

■決定的スペースを攻略するダイレクト(パス)コンビネーション・・

タイトルが、チト難しい表現になってしまった。

要は、攻撃の目的を達成するための、人とボールがよく動く組織サッカーのことだ。

「ワンツースリー」といったパスのリズムに代表される、勢いが乗った(シンクロした意志が沸き立つような!)素早く緻密なダイレクトパスを積み重ねていくコンビネーション。

そう、相手ディフェンスの守備イメージを超越する、素早くスマートな人とボールの動きを基盤にした組織的な最終勝負である。

ところで、相手の守備ブロックを攻略するというテーマ。

言わずもながだけれど、攻撃の目的はシュートを打つことだ。

そして、そこへ至るまでの当面の目標イメージが、裏スペースへの侵入であり、それこそが、「相手守備ブロックの攻略・・」という表現のコノテーション(言外に含蓄される意味)なのである。

まあ、裏スペースを攻略することは、相手守備ラインのウラ(決定的)スペースで「フリーのボールホルダーを創りだすこと・・」とも言い換えられるかな。

ところで、そのスペース攻略へ至るまでのプロセス。それには、大きく分けて二つある。

一つは、才能ベースのドリブル突破であり、もう一つが、パスコンビネーションだ。

たしかに、実際の攻略シーンでは、その「二つ」は混在している。でも半面、崩しプロセスの「主たる傾向」が、そのどちらかに偏っていることも明白なのである。

だから私は、「仕掛けのプロセスには二つの潮流がある・・」という視点でディスカッションを展開することにしているのだ。

あっと・・

ボールを止めないパスやシュートというテーマ。

その、ダイレクトパスやダイレクトシュートが、不確実なファクターが満載のサッカーでは、とても特別なグラウンド上の現象であることは、言うまでない。

だから私は、サッカー協会が規定したい(!?)ワンタッチなどという軽いモノではなく、あくまでも「ダイレクト」という特別な表現にこだわるのだ。

「サッカー人」の多くは、その「サッカー協会による用語の変更指針」について、大いなる違和感をもたれているに違いない。

このテーマについては、新連載「The Core Column」で以前に発表した「このコラム」も参照していただきたい。

あっと・・参照といえば・・

前述した、スペース攻略へ向けた2種類の「仕掛けプロセス」というテーマでも、新連載「The Core Column」で、「こんなコラム」を発表しているから、そちらもご覧あれ。

フ~~ッ・・

またまた前段が、あっちへ飛んだり、こっちへ戻ったりと、とても長くなってしまった。スミマセン。

ホントは、このコラムでは、組織的なダイレクト(パス)コンビネーションを主体にした決定的スペースの攻略というテーマに集中すると前置きしたかっただけなのだが・・。

フ~~ッ・・スミマセンね・・ヘヘッ・・

■現代ディフェンスは、単純なワンツーだけでは簡単に崩せない・・

そう、ディフェンダーの「勝負イメージ」もまた、とても進化しているのだよ。

だから、いくら攻撃陣に才能プレイヤーが揃っているとはいっても、ワンツーなどの単純なコンビネーションだけで崩し切るのは難しくなっているのだ。

■ここで「また」ちょっと脱線・・世界トップの連動ディフェンスと「個の才能」・・

今回の(2015-2016年シーズン)UEFAチャンピオンズリーグ準々決勝。バルセロナが、アトレティコ(マドリー)に完敗を喫した。

そこで目立ちに目立っていたのが、アトレティコの、抜群に忠実な、そして強烈な意志と勇気に支えられたハイレベルな守備だった。

彼らは、最後の勝負の瞬間、強烈な意志と勇気をもって、バルサ選手のラストパスやシュートを、足や身体でブロックしつづけたんだ。それは、とても感動的なシーンの連続だった。

なかでも、守備ブロックの重鎮、キャプテンでセンターハーフの「ガビ」が魅せた、最後の瞬間に「半歩足を伸ばせる」守備アクションが秀逸だった。

後半14分、バルセロナのジョルディ・アルバが、まさに決定的と言える、グラウンダーのラストクロスを、アトレティコゴール正面で(フリーで!)待つピケの足許へ送り込んだ。

そのグラウンダークロスを、最後の瞬間にピケの眼前スペースに入り込んで弾き出したのが、ガビだったのである。まさに、レベルを超えたスーパーカバーリング。

それは、イタリアサッカー史を彩る「あの」スーパーディフェンダー、フランコ・バレージのイメージにも重なる秀逸なカバーリングだった。

そう、アンティシペーション(予測イメージング能力)と強烈な意志と勇気によって最後の瞬間にブチかます、起死回生の守備アクション。

このテーマについても、「The Core Column」で、「こんなコラム」をアップしたことがあったから、ご参照ください。

モデルは、言わずと知れた、フランコ・バレージ。

あっと・・またまた・・

バルサの、レベルを超えたダイレクト(パス)コンビネーションを、明晰な守備イメージングによって効果的に抑えてしまうアトレティコというハナシから、フランコ・バレージまで、ハナシが大きく脱線してしまった。

この章では、現代の組織(連動)ディフェンスが進化しているからこそ、攻撃側も、しっかりと3人目、4人目のフリーランニング(まあ動かない方が良いケースもあるだろうけど・・)を駆使する最終勝負をイメージしなきゃいけないというコト「も」言いたかったわけさ。

それにしても、メインテーマからの脱線が多すぎる!?

フ~~ッ・・スミマセン・・

■さて本題・・3人目、4人目の連動フリーランニング・・

ここまでは・・

・・進化した組織的(連動)ディフェンスを単純なワンツーで崩していくのは難しい・・

・・だからこそ、3人目、4人目のフリーランニング「も」効果的に絡めていくような高質コンビネーションが、組織サッカーでは必須になっている・・

・・なんてコトを表現したかった。冗長で、ホントにスミマセン。

ということで・・

3人目、4人目のフリーランニングが効果的に絡んでいく、ダイレクト(パス)コンビネーションという本題に入っていきましょ。

そこでの「動き」の基本リズムは「ワン・ツー・スリー」。

でも、前述したように、それを「フォー」にまで進展させることが(現代サッカーにおいて!)成功を収めるためのキーポイントになるっちゅうわけだ。

もちろん、相手ディフェンスが、ボールウォッチャーになる傾向が強いなど、物理的、心理・精神的なプレー内容のレベルが低ければ、ハナシは簡単だ。

でも、このコラムで扱うのは、前述したアトレティコのように、相手が「どの決定的スペース」をターゲットにしているのかを明確にイメージ出来てしまうような強者ディフェンスだ。

だからこそ、3人目、4人目フリーランナーの爆発スタートを司るバックボーンに、どのような物理的、心理・精神的「内実」が潜んでいるのかをディスカッションしていこうと思ったのである。

■もっとも分かりやすい「スタートサイン」・・もちろんそれはアイコンタクトだけれど・・

・・たしかに分かりやすい・・でもね・・

そう、そのことは、攻撃側だけじゃなく、守備側にとっても同じなんだよ。

ワンツーという状況だけじゃなく、ディフェンダーの経験(イメージング能力)と意志の内実によっては、3人目や4人目の連動アクションだって明確に予測され、効果的に対処されてしまうこともあるんだ。

でも、まあ、そんな(前述したような)世界トップの連動ディフェンスや、個の(守備)才能は、ここでのディスカッションの範疇(はんちゅう)を超えている・・としようかな。

えっ!? 前言と矛盾する!? そうね・・。ヘヘッ・・

さて、もっとも分かりやすい「アイコンタクト」というスタートサインだけれど・・

ここでは、そのスタートサイン「だけ」に頼るのでは、レベルが高くない(!?)相手でも、より明確に、攻撃側が狙う決定的スペースをイメージできちゃうということが言いたかった。

そう、単純なアイコンタクトだけでは、相手ディフェンスに、「狙うのはアソコだな・・」ってな具合に、簡単に「読まれて」しまうのがオチなんだよ。

■だからこそ、仕掛けイメージのシンクロ(同期)の進化&深化がテーマなんだ・・

もちろんアイコンタクトが、一発スルーパスやワンツーコンビネーションに絡むプレイヤーたちにとって、とても重要なコミュニケーション(連動性の)ツールであることは論を俟(ま)たない。

いや、どんなレベルのサッカーでも、やり方によっては、とても大事な(連動)コンビネーションのベースになるのだ。

相手ディフェンスに、そのアイコンタクトを「読まれ」て先回りされたとしても・・ね。

でも、もう何度も書いたように、現代サッカーでは、それ「だけ」では足りないというのも確かな事実なのだ。

だからこそ、相手ディフェンスの「守備イメージング」を超越するために、3人目、4人目フリーランナーが有機的に連動できるまでにコンビネーションを進化&深化させなきゃいけないのだ。

そして、だからこそ、ボールホルダーやフリーランナーたちがアタマに描くコンビネーションイメージの内容と「そのシンクロ状態」が問われるっちゅうわけだ。

そう、ワンツーなどの最初のコンビネーション(その流れやリズム!)をベースに、そこに絡んでいく3人目、4人目の「最終勝負イメージ」が、最初のコンビネーションの「それ」と、ある程度はシンクロしているという「理想型」を目指すのだ。

明確なアイコンタクトがなくても効果的に連動させられる高質(イメージ)コンビネーション。

それである。

■もちろん、コンビネーションイメージが正確にシンクロすることは「希」だ・・

そうなんだよ・・

複数プレイヤーの最終勝負イメージが、ピタリと同期(シンクロ)するような状態は、とても希(まれ)なのだ。

だからこそ、3人目、4人目のフリーランニングを、積極的に継続させられるためには、殊の外強い「意志」が必須なのだ。

そりゃ、そうだ。

何せ、自分がイメージする最終勝負スポット「まで」ボールが回されてくるかどうか分からない状態で全力スプリント(リスキーなハードワーク!!)をブチかますわけだから・・ね。

それでも、(良い!)選手たちは、結果として無駄になるかもしれない、自分が描く最終勝負イメージのフリーランニングを、忠実に、そして粘り強く何度も繰り返すんだよ。

だからこそ、強い意志・・。

状況を(その変化を!)把握しながら考えつづけ、決断して(リスクチャレンジにも!)トライしていけるだけの強烈な自己主張。

それこそが、「次」につながるもっとも重要な(心理・精神的な!)ファクターであり、このコラムのメインテーマでもあるっちゅうわけさ。

私は、そんなグラウンド上の現象を、「クリエイティブ(創造的)なムダ走り・・」と呼ぶ。

美しく優れた(勝負強い!)サッカーとは、そんな「創造的ムダ走り」を積み重ねることで初めて到達できる、誰もが感動するような「高み」なのである。

■「・・の、ハズだ・・」でアクションを起こし続けられることの価値・・

そう、強烈な意志に支えられた3人目、4人目フリーランナーだったら、「・・ここにパスが回されてくるはず・・」と爆発スタートを切るだけじゃなく、その動きを途中で止めたりしないはずだ。

また、ボールホルダー(次のパスレシーバー)にしても、「・・あそこにヤツが入り込んでいるはず・・」と確信し、勇気をもって(ダイレクト!?)パスを回すはずなのだ。

美しく優れた(勝負強い!)サッカーでは、そんな、「使い・・使われる」コンビネーションが、効果的に連動しつづけているのである。

組織コンビネーションが、そんなレベルにまで進化したら鬼に金棒じゃないか。

何せ相手ディフェンスは、相手ボールホルダーや次のパスレシーバーだけじゃなく、その時点でマークしている相手の動き、そしてフリーで裏の決定的スペースへ走り抜けようとする3人目や4人目のカバーリングなども意識しなければならないわけだから。

■そして、だからこそイメージトレーニングが重要なのだ・・

選手たちは、クリエイティブ(創造的)なムダ走りを積み重ねていくハードワークの「価値」を、しっかりと理解し、体感レベルで認識できていなければならない。

それがなければ、いつかは、めげてしまい、モティベーションの(意識と意志と勇気などの)レベルもダウンしてしまうことになるだろう。

だからこそ、勝負のダイレクト(パス)コンビネーションのイメージシンクロ内容を充実させるためだけではなく、そこでの(結果としての!)ムダ走りが、決 して、何も生み出さない「無為なムダ」ではないという事実を再認識させつづけるためにも、クレバーに編集されたビデオ素材などを活用する(!?)イメージ トレーニングが重要なのだ。

もちろん、そこで語られるプロコーチ(監督)の言葉も、彼自身の「生き様やコーチング姿勢」を選手たちとシェアするという意味合いも含めて、とても重要になってくるだろう。

そう、ストロングハンドによる、優れた心理マネージメント・・である。

■最後は、ミハイロ・ペトロヴィッチ率いる浦和レッズという話題で締めよう・・

2016年アジアチャンピオンズリーグのグループステージ第5戦。

レッズは、アウェーで、その時点でグループトップに君臨していたシドニーFCと対戦した。

例によって、攻守ハードワークを自ら「探しつづける」レッズ選手たち。ゲームの全体的なイニシアチブを握りつづけるのも道理だ。

そして彼らは、後半32分、得もいわれぬほど美しいゴールチャンスを創りだすのである。

その顛末は、こうだ。

GK西川周作からのロングフィード。競り合った李忠成がボールを前方へ流す。

それを拾った左サイドバックの梅崎司が、一瞬のタメを演出する。

それが勝負の瞬間だった。

そのとき同時に、逆サイドで、決定的なフルスプリントをブチかましたチームメイトがいた。

そう、この試合でも、攻守ハードワークと創造性プレーの両面で抜群の存在感を発揮しつづけていた柏木陽介。

そして「コト」が起きた。

ボールホルダー梅崎司が、瞬間的な「カット」でシドニー選手のマークを外し、素早いタイミングで決定的スペースへのラストスルーパスを通しちゃったのだ。

もちろん「そこ」には、柏木陽介がフルスプリントで走り込んでいる。それは、誰もが、柏木陽介のダイレクトシュートをイメージした瞬間だった。でも・・

そう、柏木陽介は、ダイレクトシュートだけではなく、柏木陽介が走り抜けたことで空いたヴァイタルエリアの決定的スペースをもイメージしていたのだ。

そのヴァイタルスペースには、もちろん興梠慎三が、爆発フルスプリントで走り込んでいった。

そして・・

柏木陽介の、ダイレクト・ヒールパスが、完璧フリーで走り込んだ興梠慎三にピタリと合った。

その時、この2人の間には一瞬のアイコンタクトがあったのかもしれないけれど、私には、「目」ではなく、「あうんのイメージシンクロ」による「落とし」だったと思えてならない。

とにかくそれは、誰もがレッズの決勝ゴールを脳裏に描いた瞬間だったのだ。

でも・・

そう、興梠慎三が放ったダイレクトシュートは、素晴らしいタイミングで飛び出したシドニーGKのスーパーセーブによってブロックされてしまったのである。

そのダイレクト(パス)コンビネーションは、ボールホルダーとして一瞬の「タメ」を演出した梅崎司、最後方から走り上がった李忠成も含めた「4人」の勝負アクションが、まさに夢のように有機的に連鎖した(イメージがシンクロした!?)瞬間だった。

鳥肌が立った。

いまのレッズは、このチャンスメイクが象徴する、3人目、4人目フリーランニングが効果的に「連動」するダイレクト(パス)コンビネーションによって、圧倒的な存在感を放っている。

それこそ、彼らの仕掛けイメージが、チームのなかで共有され、統一されていることの証と言えるだろう。

もちろんサッカーだから、ダイレクト(パス)コンビネーションとはいっても、実際の「グラウンド上の現象」自体は、千差万別だ。

でも、何度「ムダ走り」になっても、強い意志でハードワークを探し、勝負しつづけるという選手たちの強烈な意志と勇気、そして「満足感」は深まっていると感じる。

だからこそ、その「コンビネーション・イメージ」には、確固たる「統一感」があると思うのだ。

私は、コラムを書きながら、レッズを率いるミハイロ・ペトロヴィッチに対して(心のなかで!)最大級の賛辞をおくっていた。